〜 土曜日・集合 〜-2
「測定データはみなさんの首輪に記録されます。 測定項目は身長、座高、体重……」
不意に口を12号教官が口を噤んだ。 視線の先には、彼女が担当する1組の生徒がいる。
薄っすら茶色い巻き毛の少女。 顔はもちろん、お腹にも胸にも青い痣がいくつもあった。 寮の食事と薬効成分にとんだ入浴、強化した皮膚であれば大抵の傷は一晩で完治する筈だ。 それでも痕跡が残っているということは、相当こっぴどくやられたことが伺える。
「50番さん?」
「……ッ」
やさしく首をかしげる12号教官。 『50番』と呼ばれた巻き毛の少女は、傍目に分かるくらいビクリと震えた。
「貴方、どうして余所見をするの? 準備してくれている先輩が、前に立って話をしている私よりも気になるの?」
「あ、あ……」
「お返事は?」
「も……も、申し訳ありませんでした!」
声をはりあげる50番。 目をギュっと閉じて口を結ぶ。
本当に余所見をしたのだろうか? 私はCグループ全体、特に自分が担当する2組を見ていたので彼女について断言はできないが、見たとしてもチラ見程度だろうと思う。 とはいえ教員と生徒の関係において、教員の方が常に偉く、常に正しい。
「ふう。 2号さん、14号さん、ちょっとだけ、余計にお時間いただけます?」
わざとらしい溜息をつき、眉をよせる12号教官。
「「はい」」
学園に年功序列がないといっても、そういわれて断ることも、疑問を呈することも礼儀に反する。 水を向けられ、私と14号教官は小さく短く即答した。
「どうしようもないでしょう? 1組だ、なんていったところで、中にはあんなゴミもまざってるんですよ。 2、3組のみなさん、ごめんなさいねえ。 みなさんは、ちゃあんとお行儀よく躾けられているのに、まったく……49番、注意してあげなさい」
「ハイ!」
言うが早いか、隣の少女が50番の髪を掴む。
「どうして先生の話を聞けないわけ!? アンタのためだけに、クラスが恥ずかしい思いをしてもいいってこと!?」
「そんなこと――あうっ」
パシィッ。 小気味よい打擲が頬にとんで、50番は仰け反った。
「言い訳する気!?」
「だって、だってあた――ジィッ」
パシィン。 更に甲高い一撃。 踏鞴(たたら)を踏むも、50番はすぐに元の姿勢になる。
「歯をくいしばる!」
「はひ……!」
バシッ、バシッ、バシッ、バシッ。
「アンタのためにッ、わざわざッ、先生がッ、注意してくれてッ、いるんだからッ」
バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ。
「いい加減ッ、弁えたらッ、どうなのってッ、いってるのにッ」
「っぷっ、ぎっ、ひっ、いっ、あっ、ふっ、うっ、ぷっ……!」
往復どころか延々とビンタが続く。 懸命に姿勢を保つ50番に対し、クラスメイトというのに49番は全く容赦がない。 私がビンタするときは、例えば対象が呼吸する間くらい与えるが、そこは少女の浅はかさで、兎に角強く早く叩いている。 あれでは息も継げないだろうに、叩かれる身の辛さは分かっていないのだろうか。
「もっとちゃんと謝れないの!?」
パシッ。
「もっ、もうしわけ――えぷっ」
「遅い! やり直しッ」
パシッ。
「もうしわ――あぶっ」
「遅い遅い遅すぎる!」
パシッ。
「もうし――いぎっ!」
「また舌噛んで……ぐず、のろまっ」
パシッ。
「っ……っ……」
間髪入れず叩いておいて、謝れなんて無茶だ。 50番の唇から赤い滴が、ツー、口許から流れる。 どうやら深く舌をきったらしい。 喋っている最中に頬を張られれば、誰だってそうなることだ。 泣きだしたり蹲ったりしないだけ、個人的には頑張っている方だと思うが、1組的には足らないんだろう。 誰も同情の気配を見せない。