Thank you.-6
「これでも、俺なりに乃恵を大事にしているつもりなんだけどな」
そういってゆっくりとキスをする体勢に持って行った。
「嫌ならとめろ」
そう言ったすぐ後に俺の唇を乃恵は両手で押さえた。
本当にキスを阻止されたのは初めてだ。
そう思うと、少し可笑しくなって。身体を離した。
「では、また同じ質問をします」
「なに?」
「そんなに愛がなくても普通にセックスが出来るのに。
なぜ私にはキスの1つもしなかったのでしょう?」
「だから、今しようとしただろ?」
笑いながら言った俺をじっと睨んで
「今のは私に言われたからですよね?」
「私にも欲望があるみたいです」
「は?」
そう言うといきなり俺の肩を掴んで
そっと唇が触れる手前でピタッと止まった。
「乃恵・・・?」
ほんの数ミリ動いたら、唇が触れそうな距離だ。
「岡部先輩と愛のあるキスがしたいです」
そう言って、バタバタと階段を下りてバタンと大きな音とともに
乃恵が家を出たのが分かった。
あいつ―――
俺はいつまでも乃恵の唇と触れる寸前だった自分の唇を右手の甲で押さえていた。