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窓際の憂鬱
【制服 官能小説】

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窓際の憂鬱-1

バス停の横に停めた自転車を漕ぎ出せば、そこはまだ坂道の途中になる。
助走もなしにいきなり坂道から漕ぎ出すにはかなりのムリがあるなどと、毎日思いながらもなぜか押して上るのはプライドが許さないというような変なところが私にはあった。

お尻をあげてペダルを踏みしめる。
握るハンドルは地面を這うようにクネクネさせながら上りきってしまえば、そこには青い海が見えた。
そう、これが私の生まれ育った町。微かな潮の匂いを吸い込みながらペダルから両脚を放ち、一気に坂を下り抜ける。
きっとこの爽快感を味わいたいがためにあえて坂道を漕いで上がるに違いない。

人生だってこんな風に、きっと少しだけ耐えればあとは快適なものとその頃は信じていたのだろうと思う。

県道の突き当たりには港が広がっていて、狭い海岸から市街地へと入って行く。
その手前、県道から海岸線の分岐点付近。
ちょうど道が狭くなったところあたりで女の人がいつも窓際から海を眺めている家があった。

家というよりも例えばそう・・・駐在所のような小さな建物だっただろうか。
ブロックを組み上げた壁を白いペンキで塗りあげて、窓辺には花もない。
前からそんな建物があったかどうか私には覚えがない。
高校に通うまではバスに乗る事も県道に出る事もそう頻繁にはなかったからだろう。

女の人はそんなに昔からそこにいるというわけではなさそうに思えた。
二十代から三十代。
いくつかは知らないままだったが、少し癖のある漆黒の髪をしたまだ若い人だった。
田舎町の事だったから「どこそこの娘さんがどこに嫁いでどこに住んでる」みたいな事はだいたい知れていた。
だけど、この女の人の話は聞いた事もなかった。
それに地元の人が窓際にイスを置いて、毎日海を眺めてるなんていうのも不自然に思える。
私には話した事もないこの人が何か特別な意味を持ってこの町の片隅に存在しているような気がしていた。

海岸線に入ると民家がずうっと軒を並べ、やがて小さな商店街に出て来る。
この町では最寄にコンビニすらなく、ここは多少なりともいつも賑わっていた。
その商店街の中にうちはあって、なぜか私は仏具店の娘だった。
仏具店の娘だからって年中線香臭いわけではないのだけれど、私は線香臭い女にならないようにずいぶんと気を配っていた。
つまりそれが、港の端の一軒家などを詩的感情で観るといったような事だったのだろう。

ただ、お彼岸のシーズンは好きだった。
お店の前にたくさんの花が置かれて、この時期だけ花屋の娘になったような気分になれたからだ。
仏具屋の娘より花屋の娘の方が、そりゃいいに決まってる。
幼い頃はいっその事、花屋にしようと両親に嘆願した事もあった。

その女の人を海辺の一軒家以外の場所で見かけたのはたぶん、それが初めての事だったと思う。
彼女は私のうちの近くまで出てきて買い物をしていたのだった。

「ちょっと、触らないでくれるかい!」

それは近所でも意地悪で評判の八百屋のおばさんの声だった。
振り向けば、ニンジンを手にしたあの女の人に何か文句を言ってるようだった。
彼女は鮮やかなニンジンを元の場所に置くと黙ってそこを立ち去った。

「病気が移っちまうよ・・・」

おばさんは顔をしかめて小さく言い捨てた。
あの人は病気だったのか!?そういえば痩せてるし、どこか顔色が悪い。
女の人は買い物の袋をさげていた。
ひとつはお肉屋さんの黄色い袋と、もうひとつは缶詰のようなものが入っている袋に見えた。
病気なのにあんな場所から歩いてきたのだろうか?自転車でも少し距離がある。
おばさんは好きじゃなかったけど、私はしばらくおいてからニンジンとブロッコリーをおばさんから買った。
ここには地元で採れた野菜を売る店が他にも一軒あったけど、そこは今日はお休みで私の家の隣にあった。

どういうつもりでそうしたのか分からないけど、私はあの人が手にしたニンジンを買って明日持っていってあげようと思ったのだ。


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