部長と刺客と冷静男-7
すぐさまふたりが後ろをついてくる。
「あ、ですけど幸一郎さんが変態であろうとチキンであろうと頭が弱かろうと皮肉屋であろうと、わたくしが遊べる分にはちっとも構いませんから。どうぞお好きなだけエロス界へのエロスロードを邁進してくださいな」
とりあえず無視して先を行くことにした。
「凄いね。どこまで行けば気が済むのかなっ。ある意味これも男の浪漫? でもさ、もうちょっと現実を見ようよー。そんなこと極める前にねじれた性格を治さないとねっ」
とりあえず無視して先を行くことにした。
「ああ、無言は肯定とさせてもらいますよ。ちなみに否定は肯定、肯定は当たり前ですが肯定と取らせていただきますから。と言うことは――、すなわち存在自体がエロスに対する肯定ですね?」
とりあえず無視して先を行くことにした。
「無視しないでよー、冷たいなぁ。あーあ、せっかくあんなに頑張って真人間にしてあげたと思ったのに。もう根本的なトコがグチャグチャにねじれて一回転してるみたいだね。だめじゃん!」
完全に無視して先を行くことにした。早足に、なるべく歩幅を大きくする。
背後では僕が相手にしないと悟ったらしいつばさと遠矢が、僕に関するくだらない話で盛り上がり始めている。
……うわぁウザい。
ここは止めるべきか。それとも無視を徹底した方がいいのだろうか。
どちらを選んだにしても嫌な結果になるだろうということが簡単に想像できるからつらい。いつも通りすぎて涙が出てきそうだ。出ないけど。
どうしたものか。毎日がワンパターンなのに、なぜかいつまで経っても対策がうまく行かないのは何が悪いのだろう。僕はあいつらの頭の中身だと思う。思うと言うか絶対。
などと言いつつ、毎日のように素直に部室に向かう僕こそどうしたものだろうか。実はマゾか。
……嫌だな、おい。
少し落ち着いて頭を冷やした方がよさそうだ。
ちょうど色々と考えている間につばさのクラスの前まで来ていた。しかし僕が入る理由はないし、そもそもあいつの席が解らない。どんな鞄かは知っているがそれでは捜すのも面倒だ。つまり結局のところ、つばさが自分で取ってくるのが一番早い。だから教室の少し手前で阿呆を待って立ち止まり、
ドガンッ!!
腹にひびくような打撃の音。
同時に、目の前で戸が吹き飛んだ。
そして、人も。戸に肩から体当たりをしているように飛び出す人影。見知らぬ男子だ。
それらが床に倒れこむのをやけにゆっくりと見ながら、あの男子がぶち当たっせいで戸が外れたんだな、などと考えて、
「――うおっ!?」
二つが倒れきると同時に驚いた。
「うわわっ、い、いっちー大丈夫っ!?」
「あらあら大変ですね」
あわてるつばさと、あわてない遠矢。しかしそんなことに構っていられるほどの余裕はなかった。もし教室に入ろうとしていたら直撃していただろう。その場合どうなるかは推して測るべし。まさに危機一髪だった。
驚きに思考が止まりかけていたが、しかし唐突に我に返った。そしてこれは何事だ、と思っている間に次の動きが来た。
倒れた男子を追うように教室から誰かが飛び出してくる。
いや、誰かというか、
「――長谷部!?」
知り合いだった。
しかし、こちらに気付いていないのか長谷部は無反応。ただ軽く跳躍しつつ右足を振り上げ、前進の勢いに合わせて床に打ち付けるように振り下ろした。そのコースでは、行き着く先は倒れている男子の無防備な頭、
「――! っ!」
だが男子は当たる寸前に気付いて首をひねり、紙一重で回避。倒れた戸が代わりに踏み付けられて、きしみを上げた。
打音の余韻が消えないうちに男子と長谷部、どちらもほぼ同時に動く。