部長と刺客と冷静男-6
それでもこうして一緒にいるのは、いたいと思ってしまうのはなぜだろう。
もしかしたら僕は気安い相手だと、構えなくていいからという理由だけでつばさと共にいるのだろうか。逆に、つばさは何を願い僕の横に立つのだろうか。確かに心は告げた。想いは聞いた。その過去を経た結果が今であることは間違いない。しかし、もしかしたら互いに意見が一致しているように見えて、その実まったく見当違いもはなはだしいほど、どうしようもなくすれ違っているのではないか。ただ己が依存するためだけにつばさの隣を望んでいるかもしれない僕は、だとすればとても不実で汚らわしいものだ。つばさの笑顔を見ていると、笑い声を聞いていると、たまにどうしようもなくそう思ってしまう。
僕らは同じなのか、違うのか。
「ねえねえ」
不意に声をかけられ、思考を中断。
「考えごとしながら歩くと危ないよー? それにいっちー、頭使うのは向いてないと思うし」
僕の考えなど知りもせず呑気に言うつばさを見ていたら、何かどうでもよくなった。一緒にいたいか、いたくないか。理由はどうあれ答えは後者。今はそれで充分だろう。
あるいは、ぶったことを言えば、こうやって疑ったり不安だったり、信じたり傷ついたり救われたり喜んだり悲しんだりしながら、その中で少しずつだけど解ったり、でも解らなくなったりしていくことこそが本当に本物なんだろう。この軽い頭を少し使っただけでも答えが出せるような世界なら、物語なんて三分で終わる。
だから考えるのはこれぐらいにしておこう。それに目下しなくてはいけないこともできた。
不意に立ち止まるとつばさも立ち止まり、どうしたのかと僕の方を見る。なぜか無駄に楽しそうなその顔にそっと手を伸ばし、
「……」
快音。
さらりと毒を吐いたつばさの額に、お返しとしてキツイ一発をプレゼントしてやった。
「〜〜〜っ」
「ひと言余計だ阿呆」
指に返る感触や音からかなり会心の決まり具合だと感じ、声も出さずに痛がるつばさの様子もそれが正しいと物語っている。
ああ快い。
ってサドか僕は。
「……いやいや、それは気にしたら負けか」
「何がですか?」
疑問符。しかもすぐ真後ろから。
驚くより先に、身体が振り向きと後退を自分的最高速度でこなした。
「わっ、びっくりするじゃないですか。どうかしましたか? まるで、背後におかしな気配を感じてあわてて振り向きましたと言いたげな表情ですよ。何もありませんのに」
振り返ってみれば驚き顔の遠矢が立っていた。
こいつは自分が何をしたか、それを他人がどう感じたか理解していながらこういうことを言う。遠矢桜子とはそういうやつだ。
「嫌なやつだな。それと、音もなく人の後ろに立つなっ」
「……いっちーがニブいだけじゃん」
復帰したつばさが生意気な口を叩いたので、デコピンの準備を見せて静かにさせた。
「ふふ、そんなに照れなくても大丈夫ですよ? 解ってますから」
「……何がだよ」
「あら、ここで暴露してもよろしいんですか? さすが幸一郎さん、自ら羞恥の渦に飲み込まれたいんですね。いじめてもいじめられても楽しいだなんて、文学部のおかげで毎日が快楽三昧ですか? つまりわたくし達でハァハァ言っていると。だったら言わせてください。――このスケベ」
「うわぁ、やっぱりいっちーはいっちーだねっ」
もう色々と我慢がきかなくなってきたので、とりあえず無視して先を行くことにした。