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マナブにスマートフォンを返しながら、わたしは硬い表情をして遊ばれてるのかなぁと小さな声で言った。
マナブは何も言わずにわたしの頭をぽんぽんと撫でると、行くぞと振り返りながら言った。
ふわりと男物の香水が香った。
細道を抜け、公園の脇を通る。
毎日のようにマナブたちと遊んだ公園。
あの頃のマナブは華奢で色白で、よく女の子に間違われていた。
幼稚園とか小学校へ通っていた頃、大柄で粗暴な男の子にマナブがからかわれたときはいつも、わたしがヒーローになってマナブをかばっていたっけ──。
わたしはそっと隣を歩くマナブの腕を見た。鍛えられ、太く逞しくなっていく腕。
「マナブ、明日時間作れる?」
「ジムのあとでいいなら」
「連絡する。ほんと鍛えるの好きね」
「女に間違われることなんてなくなるだろ? 俺、ヒゲも薄いしあんまり生えないからさあ。昔は“マナちゃん”なんて呼ばれてからかわれていたぐらいだし」
「髪の毛もさらさらで綺麗だし、女子からは羨ましがられていたけどね」
「嬉しくねぇなー。いっつも那月にかばってもらってたしなぁ、俺」
「今、そのときのことを思い出してた。わたし、負けん気が強くて力も割と強かったからなあ」
「西浦とケンカして勝ってたもんな」
そうそう、と顔を見合わせて笑う。
わたしは校内の乱暴者に負けたことはなかった。くちでも、殴り合いでも。
学年の違いなんて関係なかった。マナブを困らせるやつは片っ端から黙らせていった。
懐かしい。
昔はほんとうにマナブといつも一緒だった。
中学も高校も同じところに進学した。
大学も同じ。
それなのに、いつから一緒に遊ぶことが減ったんだろう。
「お前、ほんとあの先輩と別れろよ。いい噂聞かねぇからなぁ、あの先輩」
「心配してくれてるの?」
「そりゃ心配もするだろ。困ったら言えよ。昔守ってもらっていた分、今度からは俺が那月を守るからさあ」
「ありがと、マナブ」
コンビニの眩しい光がマナブの顔を照らす。照れたような、怒ったような横顔。
かっこいい。そう、思った。