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マナブとわたしは同い年だけど、涼子お姉ちゃんはわたしたちより7つ年上。涼子お姉ちゃんの旦那さんは、涼子お姉ちゃんより1つ年上。涼子お姉ちゃんと旦那さんは大学で知り会ったって言っていた。
「お父さん、いつ帰ってくるのかな?」
「たぶん、もうすぐじゃないかしら。さっきそう連絡があったから」
「そっか、よかった」
父は涼子お姉ちゃんと旦那さんが通っていた大学で教授をしている。
蒸し鶏に片栗粉をまぶしてパリパリに焼く。母とキッチンに立つのは昔から大好きだった。
「あ、ほら。帰ってきたみたいよ」
母が生春巻きをリーフレタスが敷き詰められた葫蘆の密閉容器に並べながら言った。
涼子お姉ちゃんたちとの久しぶりの再会はとても盛り上がった。
それぞれの家族みんなよく食べ、よく飲み(わたしたち未成年はジュースだったけど)よく笑った。
涼子お姉ちゃんたちの子どもたちは相変わらず可愛くて無邪気だったし、涼子お姉ちゃんの旦那さんは相変わらずわたしのお父さんを先生って呼んでいておもしろかった。
ふたつの家族の集まりが年を経り、みっつの家族の集まりになった。
とても幸福で、とても楽しい時間。
涼子お姉ちゃんが子どもたちを寝かせに部屋へあがったとき、マナブがアイスを買いにコンビニへ行こうとわたしを誘った。
蒸し暑い七月。半袖から出たマナブの腕は、日に日に逞しくなっていくように感じた。
「なぁ、那月」
コンビニへの近道を入ってすぐ、マナブが言った。
夏の虫が鳴いている。遠くに電車が走る音も聞こえた。
「まだサークルの先輩と付き合ってんの?」
「そうだけど……、どうして?」
「あの先輩と付き合うの、やめろよ。俺、見ちゃったんだよ」
「え、なに?」
「っていうか、写メ撮った。──ほら、これ」
マナブが差し出したスマートフォンの画面には、先輩と──茶髪パーマの女の子が手を繋いで歩いている写真がうつっていた。
「なに、これ……」
「あの先輩、お前以外にも女がいるみたい。その女だけじゃない。俺もカズマもジム帰りに見たことがある」
よく撮れている。先輩がどんな表情をしているかも、しっかりと確認することができた。
薄々感じていた違和感のようなものがかたちとなって現れたからか、妙に納得している自分がいた。
先輩がわたしと付き合っているのは、きっとわたしのことが好きだからではない。先輩は別にわたしのことなんか、好きじゃない──。
「おい、大丈夫か?」
「……わたし、明日先輩に聞いてみる」
「聞いたってとぼけるだろ」
「この写メ、わたしのスマホに送って。証拠があったらとぼけられないでしょ」
「わかった」