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「すっげぇ鳴ってたね、スマホ」
先輩が髪をタオルドライしながら言った。襟足や前髪が長めの茶髪。
「あっ、そうだ。たぶんわたしのですよね。ごめんなさい、切っておけばよかったです」
バスタオルを巻いたままの格好でソファのほうへ歩いていく。
ベッドに座っていた先輩がわたしの腕を握ってとめた。
「那月、キス」
先輩が長い睫毛を伏せて言った。
整った高い鼻に薄めの唇。
サトシ先輩は、わたしたちのサークルや学部の内外問わず、いろんな女の子たちにいつも声をかけられているモテるひと。大学内でミスコンの男バージョンでもあったら、きっと先輩はかなりの票を集めるんじゃないかしら。
そんな先輩がわたしに付き合おうと言ってくれたのは──……。
わたしは先輩の頬に手を当てて、優しくキスをした。
スマートフォンを開くと、たくさんの嬉しいメッセージが並んでいた。
「メール?」
「あっ、はい。幼馴染のお姉さんたちが今晩帰ってくるみたいなんです。わたし、ひとりっ子なのでお姉さん代わりみたいな感じでそのひとにいつも可愛がってもらっていたんです」
「へえ。じゃあ今日は早めに帰る?」
「あっ──」
先輩がわしゃわしゃとタオルで後頭部の髪を拭くと、
「いいよ。今度うちに連れてきてよ」
と、笑って言った。
先輩は若者向けのオシャレなバーでバイトをしている。
「すみません」
「いいよ。──あ、じゃあフェラして。那月うまいんだよね」
わたしは、はいと言って先輩の足元に跪いた。
まだ少し柔らかい男根をくちに含み、舌で愛撫する。先輩がため息のような声をもらした。
「あぁ気持ちいい……。那月ってホントエロい身体してるよなぁ……胸でけぇし、フェラうまいし、あそこは超締まっててやばいし。みんな那月とヤりたいって言ってるぜ」
先輩が笑いながらわたしの髪を撫でた。
むくむくと大きくなっていく先輩の男根に舌を這わせながら、わたしはそっと目を閉じた。
***
「ただいまー!」
バタバタと音をたてて階段をのぼってリビングのドアを開ける。
「おかえりなさい。涼子ちゃんたち、さっきついたようよ。晩ご飯はまーくんのおうちに持ち寄りでってことになったわ。鞄を置いたら手伝ってちょうだい」
「はあい。マナブももう帰ってるの?」
「そうよ。まーくん、ジムに通いだしてから急に雰囲気かわったわよね」
「うん。ムキムキになりたいのかなぁ」
鞄をソファの脇に置いてからエプロンをして手を洗う。
色とりどりのパプリカ、セロリやトマトなどのたくさんの野菜がテーブルに並んでいる。
涼子お姉ちゃんは旦那さんの地元へ嫁いだので、昔みたいに合同で食事をすることが少なくなった。
昔はよく家族ぐるみでバーベキューをしたり、どちらかのおうちにお料理を持ち寄って食事会をしたり、遊園地や動物園、水族館──いろいろなところへ出かけていた。アルバムには、マナブと涼子お姉ちゃんと三人で撮った写真ばかりが並んでいる。
こうして連休のときに涼子お姉ちゃんたちと会えるのは、わたしの一番の楽しみだった。
涼子お姉ちゃんにも旦那さんにもどっちにも似ているふたりの子どもたちに会えるのも、まるで姪っ子や甥っ子に会えるようなウキウキした心地いい感じがした。人懐っこくてしっかり者の女の子とシャイで甘えん坊の男の子。恵那ちゃんと翔太くんという。可愛くて可愛くて仕方がなかった。