冥土の土産-6
8.
裕子の精密検査の結果、すい臓癌が見つかった。
すい臓がんは発見が難しく、見つかった癌はすでに手遅れで、手当ての施しようもなく、緩和ケアの病棟に移された。
緩和ケアは、末期の患者の最後の時間を安らかに過ごせるように、主に痛み止めなどの処置をするが、治療はしない。
豊は律子を誘って見舞いに出かけた。
それは、横浜郊外の丘の麓の総合病院の一角に建てられていた。
造りは病院だが、あまり薬臭くなく、スタッフも病院ほど慌しく動き回ってはいない。
「来てくれたの?」
二人を見て、裕子は頭を上げて笑顔を見せた。
「ありがとうね」
裕子は、二人のどちらにともなく目を向けて、口を開いた。
「花瓶を探してくるわ」
律子は、持って来た花束を裕子に見せ、豊には
「外で見張っているから、好きなようにしてあげて」
と耳打ちして出て行った。
「豊先生、おかげで、いい冥土のお土産が出来ました」
豊は、ベッドの脇に寄り添って、裕子の手を取った。
「もう、何もすることが無いので、先生との事を毎日想い出しているのよ」
豊との只一度の交わり、細波のように繰り返し押し寄せる豊の愛が、やがて怒涛となって、女の悦びの絶頂を迎えた。
朝のトイレで、股間からトロリと前夜の名残りが漏れ落ちた。
拭ったティッシュから、豊先生の男の隠微な匂いが漂い、目くるめく昨夜の営みを思い起こさせた。股間が疼いて、しばらくは立ち上がることが出来なかった。
裕子は、豊の握った手を、股間に誘った。