グァテマラの珈琲-2
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翌日、わたしは彼女の指定した駅の改札付近に立って彼女を待っていた。
午後七時半。何度もスマートフォンを確認する。
彼女から、もうすぐ着くと連絡があった。
昨晩、名刺の裏に手書きで書かれていたメールアドレスに緊張しながらメールを送った。
返事はすぐにあり、会って話がしたいと書かれていた。
彼女はレイカと名乗り、27歳だと言った。
一人暮らしをしていて、この駅は彼女の家の最寄駅だそう。
スマートフォンが鳴る。
メールを確認してから、わたしは顔をあげた。
「ここのパスタ、おいしいでしょ」
「はい。すごくおいしいです」
駅から歩いてすぐのイタリアン。
照明を落とした店内は、女性客ばかりで賑わっていた。
各テーブルにころんとしたグラスに入ったキャンドルが置かれ、あたたかな光が灯されている。
ごぼうのスープ、香味野菜のサラダ、それからサーモンとほうれん草のクリームパスタ。デザートに檸檬のシフォンケーキと紅茶。
おいしくておしゃれなディナー。
わたしは余計な音をたてないように、緊張しながらパスタをくちに運んだ。
「急にごめんね。でも、嬉しかった」
「そんな。こちらこそ……」
キャンドルのひかりが彼女の瞳をキラキラと輝かせる。
ドキドキする。
艶っぽい表情にも、濡れたような唇にも。
「ほのかちゃんは、明日もカフェのお仕事?」
「いいえ、明日はお休みです」
あのカフェは平日に利用されるお客様が多く、休日は割と閑散とするため土曜日は店長のみ、日曜日は閉めてしまっている。
「それじゃ、今日は遅い時間になっても大丈夫ね?」
「はい」
パスタが彼女のくちに運ばれていく。
ゆっくりと唇が動く。
「わたしね、建築系の仕事をしているんだけどね。営業ね。朝、あなたの笑顔を見るとなんだかホッとするの。今日もがんばろうって気にもなれる」
「そんな……恐れ入ります」
「恐れ入ることないわよ。前日に嫌なことがあってもね、あの場で切り替えができるっていうか。あなたの笑顔って不思議ね。安心するわ」
「にこにこするしか能がないもので……」
「大事なことよ。わたしは元気づけられている」
彼女が──レイカさんがにっこりと微笑んだ。大輪の百合のように、優雅で優しい笑顔だった。
話はとても盛り上がった。偶然にも、レイカさんとわたしは同じ高校の卒業生だった。すれ違うことはない年の差だったけど、教師の話や校舎の話、学食の話など、話は尽きることがなかった。
自分が誘ったのだからとレイカさんが会計を済ませ、彼女の家にふたりで向かった。珈琲を飲みながら、もう少し話そうと言って。
彼女の部屋はタワーマンションの一室にあった。
エレベーターに乗り、夜景が綺麗に見える階で降りた。
まるでドラマに出てきそうなオシャレなマンション。
わたしは滑って転ばないように気をつけながら彼女のあとをついて行った。