セックスの意味-12
◇
――そして、あれから数ヵ月後。
「あ」
デスクでパソコンと向き合っていた傳田が、小さな声をあげた。
「何だよ」
そして俺は、今日もまた上下スウェットに便所サンダルという出で立ちで、ペタペタと彼女の所へ歩いていった。
「社長、見て下さい」
小さく手招きされて、言われるままに傳田のパソコンを覗いてみれば、なんの変哲もないメール画面の中に、見覚えのある名前があった。
――御代田さん、傳田さん。
お元気ですか?
あたし達は元気です。
相変わらず仲良く付き合っています。
田所千鶴
文面はとても短かったけれど、添付されてきた画像に俺も傳田も思わずにやけ顔になった。
二人でどこか旅行にでも行ってきたのだろうか、透き通るような青い海を背景に、水着姿の田所さんとツトムくんが楽しそうに笑っている。
ごくありふれたカップルの写真だけど、ここにたどり着くまでの勇気が足りなかった二人。
でも、セックスというコミュニケーションツールによって、二人は素顔をさらけ出せるようになったのだ。
セックスとは、単に身体を裸にして、快楽を得るためだけの行為じゃない。
心も裸にして、相手の心と繋がるための行為でもあるのだ。
あの撮影の日から、かなり経つ。
きっと田所さん達はたくさん身体を重ねて、愛を育んで来たのだろう。
その答えが、きっとこの笑顔に凝縮されている。
二人の屈託のない笑顔に、何だか誇らしい気持ちになった。
この二人はもう大丈夫。
「傳田」
俺は彼女を見やると、傳田はすべてを理解したように頷き、マウスを動かす。
そして、彼女は手慣れた手つきで、田所さんがくれたメールを削除したのだ。
「サンキュ」
それだけを言って、再び自分のデスクに戻る。
「社長、さっそく面談のお申し込みがきてます」
「ほい、んじゃスケジュール確認して」
そうして、またいつもとおんなじ日々が始まる。
◇
俺の会社は性行為を撮影する会社。
その業務内容から、不必要に客と馴れ合ってはならない、刹那的な会社。
依頼が完了したら、顧客の顔を忘れるくらいでいなければならない。
株式会社コスタ・デル・ソルは、貴女の一番美しい姿を形にします。
もちろんプライバシーは厳守(ただし例外あり)。
興味をお持ちになりましたら、いつでもご連絡下さい。
〜act.1・完〜