二人は未完成-9
だけど、それをばか正直にこの清い二人に伝えていいものだろうか。
セックスは誰でもするものだけど、最初から刺激の強い状況を作ると、後々のセックスライフに響くのでは?
さて、どうしよう。
腕組みをしつつ言葉に詰まっていた、その時。
「皆さん、撮影の最初は照れがあるようですが、いざとなるとお二人の世界に入り込むから、平気みたいですよ」
なんと答えようか考えていた俺の代わりに、傳田が言った。
みんなの視線が傳田に集まる。
「傳田……」
「要するに、愛し合うお二人の間には私どもスタッフの存在が入り込む隙なんて全くない、ということです。ね、社長」
こちらにウインクして見せる傳田に、もう迷いはなかった。
……そうだよな。
性行為を撮影。下品な言い方をすればハメ撮りだけど、セックスそのものは下品なものでは決してない。
性欲が根底にあるから、単なる欲望の処理行為にもなり得るけれど、愛し合う二人が行うそれは、一番のコミュニケーションであり、何より一番神聖な行為なのだ。
傳田に軽く頷いてから、俺はツトムくんを見つめる。
「意外と男性の方がこういう場面でためらわれることが多いのですが、パートナーだけを見つめていると、相手を欲しいという気持ちの方が勝ってきます」
「…………」
「畢竟するに、愛という感情が一番強いということなんですよね」
ずっと強張ったままのツトムくんの眉間がフッと緩む。
初めて同士だからと言って、撮影してはいけないという決まりはない。
記念にしたい、思い出にしたい、お客様がそう望むなら、最高の映像を作り上げてやる。
やがて。
「……わかりました」
ツトムくんが頭を下げるのは、しばしの沈黙の後だった。