二人は未完成-8
「ツトム! 撮影してみようよ」
田所さんにユサユサ身体を揺さぶられて、ツトムくんの意識が現実に戻る。
明らかにドン引きしているツトムくんに気付かず満面の笑顔を向ける田所さんは、あまりにノリが軽すぎて、どこか壊れてしまったのではと、心配になるほど。
「い、嫌だよ……オレ。他の人に見られている状況でできるわけねえだろ? ただでさえ初めてだからうまくできるかわかんねえのに……」
「……うまくできるかわかんないから、見てもらうのよ。御代田さんはプロなんだし、アドバイスできると思うし」
おいおい、勝手に話を進めるな。
俺達はこっそりみんなと目で合図をしながら、なんとかツトムくんが言い負かすことを願う。
「だけど、こういうことは二人きりでした方が……」
ツトムくんがそこまで言うと、田所さんはやや声のトーンを落とした。
「ツトム?」
「……何?」
「あたし、ノリだけで言ってるんじゃない。初めてのエッチを形に残すことって、そんなに恥ずかしいことなの? 確かにあたしはロストバージンの目的の為だけにここを選んだわけだけど、もし御代田さんが相手だったら、撮影した作品は、すぐに捨てるつもりだった」
ロストバージンが目的だった田所さんが、出来上がった作品をすぐに処分することは予想できたが、こうもハッキリ言われると、かえって笑えてくる。
「でも……あたし、ロストバージンの相手がツトムなら、一生の思い出を残したい。バージンなんていらないものだってずっと思ってたけど、好きな人に捧げられることはすごく幸せなことだって気付いたから」
「千鶴……」
「……それに、ロストバージンは一生に一度だけなのよ」
その言葉に、全員が黙り込む。
この娘は決して軽い気持ちで言ってるわけじゃない。
ロストバージンの相手がツトムくんなら、後悔は絶対しない、そんな意思の強い眼差しで彼を見つめていた。
やがて、田所さんがゆっくり俺達の方を向いた。
「御代田さん、やっぱり撮影されていると、気が散るものですか?」
「え、いや……」
俺は撮られてナンボの仕事をしてきたし、うちの会社に依頼してくるのは、そもそもセックスが大好きな人ばかりだから、撮影でお客さんがやっぱり無理、となるケースは意外に少ない。
人間、腹を括ると強いのだ。