二人は未完成-6
「これからは、千鶴と二人、お互い見栄を張らずに素の自分をさらけ出せるような付き合いをしていきます」
そう言って俺達の前に立つツトムくん。
その手にはしっかりと田所さんのそれが握り締められていた。
もうこの二人は大丈夫。
いつの間にか井出達も俺と傳田の横に並び、まるで二人の門出を祝うように晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「君達が、ここを利用するのは、二人で経験を積んでからだな」
腕組みをしながらカラカラ笑う井出。
「いやいや、本当ならこんな会社を利用しない方がいいよ、マジな話」
ひそひそ話をするように、口の横に手を置いて取手が冗談めかし、すかさず俺が奴の頭を叩く。
その様子に、スタジオ内に和やかな笑い声が上がった。
まあ、否定はできないが。
笑いが収まった頃、俺はおもむろに口を開いた。
「田所様。本来ならば依頼を取り下げる際は、キャンセル料が発生するのですが、今回は私どもが出過ぎた真似をしたこともあり、依頼自体をなかったことにさせてください。もちろん、病院で検査を受けた費用についても返金させていただきます」
今回の仕事は結局マイナスになってしまったが、やはりこの初々しいカップルには、全うな交際をしてほしい。
それで、二人でセックスの楽しさを知り、ちょっとスパイスが欲しくなって来た頃に、うちの会社のことを思い出してくれたら、それで御の字だ。
仕事にならなかったが、スタッフみんなの夏の青空のような晴れやかな表情に、俺と同じ思いだろうと、確信した。
「それでは、これからもお二人のお幸せを弊社一同、心よりお祈りしています」
深々と頭を下げる俺につられ、スタッフみんなも次々に頭を下げる。
仕事にならなかったお詫びに、今日はコイツらに飯でも奢ってやろうか。
そう思いながら顔を上げると――。
「あ、あの……」
もじもじしながら口を開く目の前の田所さん。
そんな彼女に一斉に視線が集まり、そして、次の瞬間、彼女は思いもよらないことを口走るのだった。
「あの……あたし達の初体験、撮影していただけないでしょうか」