二人は未完成-4
ツトムくんが童貞であるのを打ち明けられなかったのは、田所さんとほぼ同じ理由だそうで。
友達がみんな経験があったから、童貞であることをカミングアウトする勇気を出すことができず、ついつい経験がある振りをしていたそうだ。
見た目も爽やかなイケメンが、経験ないことが意外だったが、中・高校と部活一筋だったこと、元来人見知りが激しくて、女の子と話すチャンスがなかなかなかったことから、恋愛に縁遠い生活を送っていたんだそうだ。
「じゃあ、なかなかあたしに手を出してこなかったのは……」
「童貞ってバレるのが怖くて、踏み出せなかったんだ……」
顔を赤らめて俯く彼の言葉は、本心だろう。
好きな人の前ではカッコ悪い所を見せたくない。
特にツトムくん位の若い男なら、童貞=ダサい、女慣れしてる=イケてる、みたいな風潮は根強い。
だから、彼女である田所さんの前では自分を作っていたのだろう。
彼もまた、田所さんに嫌われたくなくて。
田所さんがこじらせ処女なら、ツトムくんはこじらせ童貞ってことか。
「あたし達、最初から素直に自分のことを話してれば何も問題なかったんだね」
「うん。オレ達、変に経験がないことをに気にしすぎだったんだな」
やがて二人は、どちらからともなくクスクス笑い出した。
うん、やっぱり二人はお似合いじゃないか。
「田所様」
「御代田さん……」
ツトムくんの身体からスッと離れた彼女は、やっと穏やかな笑顔をこちらに向けた。
「今回の依頼は、キャンセルでよろしいですね?」
「…………」
「本来なら、お客様の依頼は決して外部に漏らすことはないのですが、田所様の場合については例外の対応をさせていただきました。田所様のことを考え、最良の手段をとらせて頂いたとはいえ、お客様の秘密を土居ツトム様に話してしまったのは、弊社の過失になります。大変申し訳ありませんでした」
彼女に向かって、深々と頭を下げる。
そう、傳田を使い、恋人のツトムくんにこの撮影を知らせることは、明らかなルール違反であり、ちゃんと守秘義務についても契約書に表記している。
俺の会社だから、俺がルールなのだが、田所さんからここを突っ込まれたら、まず間違いなく負ける。
示談になったら、いくらかな。
ぼんやり頭の中で自分の貯金の額を計算しながら、彼女の言葉を待った。