志津絵-1
東京駅に着いた椙田丈太郎は、汽車に揺られた長旅の疲れに大きく伸びをした。田舎の両親は都会へ出て行く息子をひどく心配していたが丈太郎の村から帝大生が出たのは初めてのことであったので、村の駅を発つ際には壮行会まで開かれる始末であった。
国ために役に立つ男になる。
そう誓って田舎を出てきたのである。
「丈太郎」
ふと、冨美子の声が聞こえたようで丈太郎は雑踏の中で思わず振り返った。
東京に間もなく発つと言う日の夕方、冨美子は彼の家へやって来た。
「東京へ行ったら、あたしのことなんか忘れてしまうんでしょ」
冨美子は丈太郎とは幼なじみであった。
「そんなこと……」
「いいの。東京にはきれいな女の人がたくさんいるから」
「冨美子。俺は東京に勉強しに行くんだ。女なんかにかまけている暇はねぇ」
冨美子は丈太郎の手を引っ張ると、自分の家まで来て欲しいと言う。
「お別れに渡したいものがあるの」
「餞別なんか、俺はいらねぇから」
「でも今渡さないと、もう渡せないから」
盆や正月には戻ると言ったが、冨美子は納得しない。まだ荷造りも残っているし、親戚連中が連日丈太郎に別れを言いに来る。親戚の友人と言う、今まで会ったこともない人たちまでやって来て、ここまで来ると一種の見せ物のようだった。
「わかったから、手離せ。こんなところ誰かに見られたら噂になってしまうぞ」
二人は足早に冨美子の家に向かった。
冨美子は「こっち」と手まねきして、納屋へ入る。
「なんでこんな所に」
納屋の戸を閉めると薄暗く、板張りの隙間から陽が入って来るだけだった。ひどく寒い。
「丈太郎……あたし、あんたが好き」
冨美子はカーデガンを脱ぐと、白いブラウスのボタンに手をかけた。
「ふ、冨美子。何する気だ」
「最後に抱いて」
ブラウスを脱ぐと、今度はプリーツスカートのホックを外し白いスリップ一枚になった。寒さと緊張で、冨美子の乳首がつんと立っているのがわかる。
「丈太郎」
冨美子は抱きつくと、震えながら唇を合わせて来た。
「冨美子」
丈太郎はそのまま積んである藁の上に冨美子を押し倒した。無我夢中でスリップをたくし上げ、小ぶりな乳房をまさぐる。
硬くなった乳首を口に含むと、冨美子は小さく呻いた。恐る恐る右手でパンティーの上から女の陰部に触れた。少し硬い毛の感触が指先に伝わる。すでに大きく、硬くなったペニスが丈太郎のズボンを大きく膨らませている。夢中で乳房をしゃぶりながら、闇雲に冨美子の割れ目に指を這わせた。
「痛いよ、丈太郎。優しくして」
「だって、俺。こんなのわからねぇ」
冨美子の唇を吸いながらズボンのファスナーを下ろし、いきり立ったペニスを出した。冨美子は力が入っていて、なかなか足を開かない。
半ば無理やりに股を開かせ、割れ目にねじ込もうとするがそこは硬く閉ざされて、挿れることができなかった。
「舐めないと入らないんだよ」
冨美子は顔を覆いながら言う。
「こんなとこを?舐めるのか?」
そう友達が言っていたと冨美子は言う。しかし、丈太郎にとってそこは放尿のための部位でしかない。こんなところを舐めるなんて、そいつは変態ではないのか。しかし、ここまで来て何もしないのも決まりが悪い。丈太郎は自分の唾を指につけると、冨美子の割れ目を濡らした。なかなか入って行かない。自分の下で冨美子は苦痛に顔を歪めいていた。
「痛いのか」
「だ、大丈夫……入れて」
丈太郎もペニスに痛みを感じている。指で襞を開きながら、ゆっくり上下させて入れて行った。
「痛い!痛い!」
「声出すな。聞こえちゃうだろう」
丈太郎は冨美子の口を塞ぎ、最後は力任せに貫いた。
冨美子は力なく藁の上に横たわっていた。
射精の快感は確かにあったが、とても快楽には結びつかない交わりだった。
「俺、まだ荷造りがあるから」
「……うん」
「冨美子。こんなことして良かったのか?」
「……うん」
「じゃぁ」
最後は、返事がなかった。
誰かが丈太郎にぶつかって行き、彼は我に返った。
冨美子にはかわいそうなことをしたと思う。もっと時間をかけて抱いてやればよかった。時間さえかければ、もう少しましな初体験になったはずだ。冨美子の気持ちには気づいていたし、自分もまんざらではなかった。近所の幼なじみと言う近さが、かえって二人の邪魔をしていたのだ。
盆に田舎に帰ったら、今度こそ。そんなことを考えながら、広い駅の改札を目指した。