志津絵-3
「先生はどんな絵をお描きになるのですか」
「私か。私は主に人物だな。美しい婦人画を描きたいと思っているが、まだまだ納得の行くものは描けん」
美しい婦人画と聞いて、丈太郎は気になっていることを尋ねた。
「あの方はお嬢さんですか?」
廊下のほうを見ながら言うと、梅林は笑った。
「あれは女房だ。そうは言っても、私には3番目の妻だが」
「奥さん、ですか」
「まぁ、年が離れているからな。勘違いも無理はない」
やはり東京の、しかも画家ともなると違うものだなと丈太郎は変なところに感心してしまった。
「なんです?なんだか先生、楽しそう」
志津絵が茶の用意をして居間に入って来た。
「いや、椙田君がな、おまえを私の娘と思ったそうだ」
「まぁ」
と恥ずかしそうに俯く志津絵に、思わず見蕩れそうになる。色白の肌に、切れ長の目。うっすらと口紅を差した志津絵は、田舎では見たこともないような垢抜けた女だった。
「椙田さん。お布団は敷いてありますからゆっくり休んでくださいね。今夜はお客様ですから。明日からは、ご自分でなさってね。でも、洗濯物は出してくだされば私がします。遠慮なさらないでね」
「い、いえ。それくらいは自分でしますから」
こんな美しい人に、とても下着など頼めない。
「寒いから風呂に浸かって休みなさい。悪いが、私はもう先に使ってしまったよ。これから少し仕事をするのでな」
「私は洗い物をしますから。椙田さん、お風呂を案内しますわ」
「はい」
志津絵の後について廊下を歩く。目の前のうなじがまぶしく、丈太郎は思わず目を逸らした。
眠れない。
ゆっくり風呂に浸かったのに、目は冴える一方だった。
初めて泊まる家なのだから仕方がないが、布団も枕も新品のようでどうにも体の収まりが悪い。
いや、今日からこの四畳半が自分の家だ。ここから大学へ通い、しっかりと学び、田舎の両親を安心させなければ。
何度も寝返りを繰り返し、枕もとの時計を見るともう午前2時を回っていた。
寝なくては。
思えば思うほど、眠れなくなっていた。
まんじりともしないまま時計の音だけを聞いていた。
喉が渇いていた。
台所で水をもらおうか。しかし、初めての家で夜中に勝手に台所に入るのも気が引ける。丈太郎は上半身を起こした。
便所へ行こう。ついでに水を飲んで来ればいい。
丈太郎は寒さに腕をさすりながら、階段を下りた。階段を下りれば玄関だ。階段を降り、廊下の奥が便所である。
足音を立てぬようゆっくりと降りた。最後の一段を降りようとした時、丈太郎は微かな声を聞いた。
吐息。
それも、激しい吐息だった。
「せ、先生……あ、あああ……」
丈太郎は息を殺し、その場に留まった。どうしよう、このまま部屋へ戻ろうか。しかし。
体が動かない。
「あ……い、いやです。先生」
志津絵の声だ。
「うっ、ああ……はぁはぁ」
たちまち丈太郎の体が反応する。
あの美しい志津絵が、襖1枚隔てた向こうで喘ぎ声をあげている。
どんな顔で、どんな体であんな声を。
「先生、もう……もうお許しください……あ、ああっ」
丈太郎は自身の男根を握り、急いで部屋に戻った。
心臓が飛び出そうだった。
ペニスは収まりそうもない。丈太郎は下着に手を入れしごき出した。
冨美子の体を思い出す。彼には、その経験しかないからだ。
硬くなった乳首を吸った感覚。生暖かい割れ目に入れた時の指先の感覚。きつくしまった冨美子の肉の感覚。
だが、丈太郎の中には裸で乱れる志津絵の姿しか浮かばない。
あの人を抱きたい。
どんな体なのだろう。
きっと冨美子よりずっと柔らかい肉襞に違いない。そんな襞に締め付けられたら……。
「うっ」
丈太郎はあっと言う間に射精していた。