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紡ぐ雨
【SM 官能小説】

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志津絵-28

 そこには裸体を晒した女が、柔らかい微笑をたたえて腕を伸びやかに上へあげている姿が描かれていた。髪が水面で揺れる水草のように広がっていた。
 細く細く、まるで白糸のような線が細かく描かれ、それが全身に絡みついていた。
 「これだけは、誰にも渡しません」
 志津絵はそう言うと、愛しそうに絵に触れた。
 「きれいですね。とても」
 「ありがとうございます」
 そう言うと志津絵は、静かに涙を流した。

「これが最後ですから……」
 志津絵は泣きながら喘ぎ声をあげた。
「私はどうしようもない女です……。先生を失っても、こうして体の渇きをどうすることもできない」
 仕事場の床は、夏場だと言うのにひんやりとしていた。丈太郎は、どうしても理性を保つことができず、志津絵の要求に応じてしまった。
 涙に暮れる志津絵を放っておくことはできなかった。
「志津絵さん、僕と暮らそう。すぐじゃなくていい。東京が嫌なら、どこか遠くへ行こう。教師の資格があれば、どこだって仕事はある」
 交わりながらそう言った。
 志津絵は肉の喜びに体を痙攣させていたが、何も答えなかった。

「また来ます」
 すっかり日が暮れてから丈太郎は梅林家を出た。
「丈太郎さん。さっきの言葉、嬉しかったわ。でも私は、時々こうして会えればいいの。私のことは心配しないで」
 乱れた髪を直しながら、志津絵はそう言った。

 冨美子は彼が留守の間、部屋に入ることができず、下宿の前でぼんやりと立って待っていた。
「丈太郎、どこに行ってたの?」
「ああ、ちょっと用事があって」
 冨美子は部屋に入ると、窓を開け風を通した。
「冨美子。悪いけど今日は帰ってくれ」
「え?」
「今日はそんな気分じゃないんだ」
「そんな。あたしは別にそれだけをしに来てるわけじゃないよ」
「そうか……とにかく、今日は帰ってくれよ」
 冨美子はバッグを持つと、わかったと言って出て行った。丈太郎はため息をつき、頭を抱えた。
 再び志津絵を抱いてしまった彼の心と体は、もう冨美子に戻れそうもない。やはり、志津絵でなければ……彼女を一人にしておけないのではなく、自分が志津絵から離れられないだけなのだ。
 さっきまで絡み合っていた湿った肌の柔らかさ、吐息、ペニスを包み込む肉の温かさや感触。
 志津絵が望むなら、彼女を縛ってもいい。求めるなら罵ってもいい。それが彼女を喜ばせるならば。今となっては病的な彼女の性癖さえ愛しいと思う。

 だが。

 その夜遅く、梅林家から炎が上がった。木造平屋建ては火の回りが速く、消防が駆けつけたが、ほぼ全焼であった。
 明け方の現場検証で、女性と見られる遺体が発見された。
 その黒焦げの遺体は、しっかりと骨壷を抱いていたと言う。そして彼女は、大きな板状の物の上に横たわっていた。
 仏壇のロウソクが倒れたことによる出火と思われたが、遺体が発見された部屋との距離を考えると逃げ遅れたとは考えにくいと言うのが消防署の見解だった。

 丈太郎は朝になり、その火事を知った。
 駆けつけると梅林家の周りには野次馬が群がっており、辺りにはまだ焦げた匂いが残っていた。警官が立っていて、野次馬を追い払っていた。丈太郎はゆっくりと野次馬から離れ、ふらふらと歩き出した。

 ポツリ、と丈太郎の頬に雨が落ちてきた。雨の雫は見る見るうちに大粒になり、まるで夕立のような土砂降りになった。

 志津絵の好きな雨が丈太郎を濡らしていた。

 終わり


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