志津絵-14
志津絵は共同の寮を出て、男の部屋に転がり込んだ。
男の部屋には、志津絵には理解できない小難しい本がたくさん並んでいた。志津絵は難しい漢字になると読めなかったし、計算も足し算引き算がやっとだったのである。
しかし、なにより志津絵が喜んだのは男の部屋にラジオがあったことだ。
好きな時に聴いていいと男は言った。
ラジオから流れる流行歌を覚え、男に買い与えられた流行の服を着て
志津絵はすっかり自分が都会の女になったと思い込んでいた。
「おまえはあんな田舎臭い店で終る女じゃない。俺が今に店を持たせてやる、それも東京でだ」
「東京なんて、あたし行ったこともない」
「東京に比べたら名古屋なんて田舎だ。俺と組んで金持ちになろう」
だが、男のセックスは身勝手で乱暴なものだった。
「もっと腰を使え、おまえの体は見てくれだけか」
志津絵は上になり、懸命に腰を振った。下から男が乱暴に乳房を掴む。
「痛い」
「もっとだ、もっと俺を喜ばせろ!」
「ああ……はぁはぁ……」
「この愚図、満足に腰も使えないのか」
しかし、志津絵は男などこんなものだと思っていた。
今まで自分を抱いた男は、みんな勝手に乱暴し、勝手に射精した。
だがその男には異常な癖があった。
志津絵を抱くときは必ず殴った。往復ビンタを食らわせ、志津絵が泣くまで足蹴にした。
志津絵が怯え出すと満足したように裸にし、跡が付くまで体中を吸い
後ろから突き、尻を叩いた。髪を掴み、舌が千切れるほど吸った。
セックスが終ると、さっさと背を向けて眠る。志津絵は体中に痛みを感じながらぼろきれにように横たわった。
「俺はおまえと違ってインテリゲンチアなんだ。でもおまえはいい女だからな、相棒にしてやる」
「インテリ、なに?」
「おまえにはわからなくていい。おまえはとにかく、体を磨け。どんな男も離さないような極上の女になれ」
その言葉の意味がわかったのは、男と暮らして半年ほど経った頃だった。その間に志津絵は2度目の堕胎を経験していた。男は避妊などしなかったからだ。
「今日は店を休め。俺と仕事に行くぞ」
男はいつもの悪趣味な服装ではなく、きちんと背広を着てネクタイをしめた。髪も横で分け、ポマードで固めた。
勤め人のようだった。
志津絵には紺のワンピースを着せたが、胸元は広く開いていた。
「どこに行くの?」
「営業だ」