首輪-8
紫煙。
狩野さんが吐き出した煙を目で追う。
このひとが煙草を吸うところを、わたしは初めて見るような気がした。
眼鏡をとった彼は彫りが深く、その瞳は鋭いようでいてとても寂しそうにも思えた。
「わ──わたし、本気ですから。狩野さんに飼われたいって、本気で思いましたからっ」
狩野さんが少しびっくりしたような目をしてわたしを見つめる。
そしてふっと笑うと、
「引っ越して環境が整い次第、迎えに行くよ」
わたしの髪を撫でながら言った。
そうして狩野さんはこの町から去っていった。
狩野さんが来なくなっても、このお店は変わりなく開いている。
わたしも変わりなく此処に座っている。
狩野さんがくれた黒い革の首輪をつけて、彼が迎えにくる日を待ちわびながら。
(了)