首輪-3
「響子ちゃんのそのコルセットを見て、絶対に今日渡さないとって思ったよ。アンティークのコルセット、よく似合っているね。響子ちゃんは本当に黒がよく似合う」
そう言って、狩野さんがチョーカーを箱から取り出した。
「つけてあげる。──響子ちゃんの黒髪、艶やかで綺麗。俺、黒髪ロングって大好きなんだよね」
狩野さんがわたしの髪を優しくまとめると、右肩から胸へ流した。
ひんやりとした革の感触を首元に感じる。
「ほら、よく似合っているよ」
狩野さんがそう言いながらモニターの近くに伏せてあった鏡を立てて見せてくれた。
鏡の中に、首輪をつけた自分が映る。
まさに、首輪だった。
「響子ちゃんの肌の白さが際立つね」
狩野さんが優しく言う。
わたしはゆっくりと首輪に触れてみた。
わたしの首に巻きついている、黒い革。
しっとりとした感触。
腰のあたりに妙なくすぐったさを感じた。
「どう思う?」
狩野さんがわたしを見下ろして言った。
「あの……とっても可愛いチョーカーだと思います。わたしなんかがいただいても良いのでしょうか?」
「もちろんだよ。響子ちゃんのために買ったんだから」
狩野さんが指輪をわたしの右手の薬指にはめる。
チェーンが重なり合う音がした。
シルバーの台座の上の赤い石。その台座からチェーンがのびている。
吸い込まれてしまいそうな、血のように濃い赤。
「響子ちゃん、今どんな気持ち?」
狩野さんがわたしの右手に指を絡ませながら聞いた。
わたしは狩野さんの目を見上げた。
「わたし──……」
淵の細いシルバーの眼鏡の奥の目は、まるで夜の海のように深く捉えどころのない色をしていた。
狩野さんが右手でチェーンを自らのほうへ引く。
まるで、主人に逆らって立ち止まった飼い犬の首輪を引くように──。
「狩野……さん」