シクラメン-1
車の心地よい振動と車内の静けさにから微睡みに落ちて、どうやら私はまた夢を見ているようだ。
夢の中で私は誰かとキスしてる。
そこには、唇と唇が触れる暖かさや、掠れてこぼれる互いの小さな吐息を噛み締めるように味わい悦びを感じてる私がいる。
(もういいや。だってこれは夢なんだからさ。現実なんかじゃないんだもんね)
両腕を伸ばして、夢の中の相手を欲して迎え入れると、触れあう唇の熱が高まり、やがては舌を絡めあう濃密なものへとその行為を深めていった。
ただそれだけで体がとろけそうに熱くなって、お腹の奥が甘く切なく軋んで、更に更にと行為を欲しがり求めてしまう。
(それにしてもなんだか凄くリアリティーある夢だなぁ…)
ぼんやりとそう思うと同時に眠りから覚めた。だけど、唇には覚め止まないキスの感触が続いてて頭が混乱して茫然とした。
目を開けたら目を閉じた那由多の切なげな顔。
私の唇には、那由多の唇が重なってて…。
(綺麗な顔だなぁ…)
白い肌に長い睫毛。少し瞼にかかる真っ直ぐな黒い前髪。
まるで他人事みたいにぼんやりと見て考えて行為を受けてると、那由多が目を開けて視線がぶつかった。
「起きてたのか…」
少し驚き目を見開き、気恥ずかしさとばつの悪さを含ませながら私から離れると、
「なんつーか…その…悪かっ――」
「…夢見てた。目を開けたら夢が続いてて頭が結構混乱してる」
「は…? どういう事だ?」
私の呟きに那由多は意味がわからないと小さく苦笑した。
「夢の中で誰かとキスしてた。目が覚めたら那由多が私にキスしてた。だけど、嫌じゃなくて、なんなの? 私、自分でも意味がわからないよ…」
体に宿って消えない火照りと疼きを抑えなきゃ。
そう思いながらも、奥底では行為を欲しがり求めて泣きそうになってる自分が怖くて。
「嫌じゃないなら…」
再度那由多の顔が近付き、唇が重なったら体の疼きが増して、喉の奥から鼻腔を伝い小さな愉悦の息がこぼれた。
同時に私は那由多の首もとに手を伸ばして、せがむように唇を求めてた。
そんな私の欲に応えてくれるかのように、キスがより激しくなって、頭が甘く痺れて思考が溶けるように霞んでいく。
「ヒカリ…」
「んっ…は…ん……」
吐息と共に名前を囁かれただけなのに、酷く体が疼いて震えさえ込み上げてくる。
(これが恋するって気持ちなのかな…?)
ぼんやりと考えてみたけど答はわからない。