Rainy day-4
ユーヤがシャワーを浴びている間、わたしはテレビを見ながら化粧をしていた。
芸能ニュースが主な、休日の情報番組。
“芸能界のご意見番”が声を荒げ、アイドルたちがはしゃぐ。
あの子たちは、いつからアイドルになりたいと思っていたんだろう。
何を目標にがんばっているんだろう。
ふいに、見たことのある顔が画面に映し出された。
「えっ……」
それは、スーツをきちんと着た証明写真のようなユーヤの写真だった──。
『人気漫画家、失踪!』と白抜き文字で大きくテロップが出ている。
「ユーヤ……」
現在のユーヤよりは心なしか若く思える。
こざっぱりとした短髪がそう思わせるのかもしれない。
名前は、羽山伊吹。
アニメ化も決まっている、少年週刊誌に連載中の漫画家……。
わたしは呆然とテレビ画面を見つめていた。
大きなボードに漫画のあらすじや世間の声が載せられている。
安否を心配する声、連載休止を悲しむ声、アニメ化が頓挫するのではないかと懸念する声……。
「あー、さっぱりした。美咲さん、用意できましたー?」
ユーヤののんびりとした声が後ろから聞こえた。
そして、立ち止まる気配も。
「あっ……」
わたしはゆっくりと振り返ると、バスタオルで髪の毛を拭くユーヤを見上げて聞いた。
ふたえの可愛い目が、画面に釘付けになっている。
「これ……ユーヤのこと……?」
「あー……まぁ……」
困ったように頬をかきながら、ユーヤが小さくウンと頷いた。
上気した頬は艶やかで、思わず触りたいと思ってしまった。
「俺、昔から手先が器用みたいで。賞金目当てで出した作品でデビューすることになったんです」
「そう……。でも失踪って……」
「うん……まぁ、ちょっと嫌になっちゃって」
「そんな……」
わたしはそう言ったまま、言葉を見つけられずにくちをつぐんだ。
“ちょっと嫌になって”……わたしもだ。
わたしも、日常生活に嫌気がさしていた。
だから、冒険してみたかったのかもしれない。こうして、年下の男の子を拾ってきたりなんかして──。
そんなわたしに何が言えただろう。
「帰れなんて言わないでくださいね。俺、美咲さんのことほんとうに好きなんです。離れたくないです」
「そんなこと言わないわ。でも──」
「俺、美咲さんに拾われたんですよ。美咲さんのものです。ずっとここにいたいんです」
「わたしだってユーヤと一緒にいたい。仕事から帰ってきて、ユーヤがおかえりって迎えてくれるのすごく嬉しいし、失くしたくない。でも、でも……こんなにたくさんの読者のひとが待っているのに……」