Rainy day-2
彼のことは誰にも話していない。
素性もわからないひとを家に入れているなんて、誰が納得するだろう。
「明日、食材の買い出しに行きます?」
「そうね、ちょっと歩くけど大型スーパーのほうへ行こうか」
ユーヤはセックスのあと必ず下半身を洗い流すためにシャワーを浴びる。自分の体液を流さないと気が済まないのだと言っていた。
彼が洗って取り込んでわたしが畳んだパジャマを着て、炭酸水を飲みながらユーヤがデートだとはしゃいで言った。
わたしが仕事をしている間に、彼は自分の身のまわりのものを早々と揃えていた。
このパジャマも歯ブラシも。
こうしていると電車で隣になる大学生たちと変わらなく見える。
23歳だって、言っていたっけ。
「帰ったらセックスしましょうね」
「そうね、帰ったらね」
ユーヤは毎日セックスをしたがった。
わたしの指の一本一本を丁寧に舐めていったかと思えば、荒々しく挿入して一気に果てることもある。
一日に一回だけとは限らない。
そのどれもが、わたしをわたし自身も聞いたことのないような声をあげさせて絶頂へ導いた。
正直、先月別れた男よりもずっと濃厚なセックスをしていると思う。
こういうのを、身体の相性がいいと言うのかもしれない。
「そういえば、美咲さん。今日掃除をしていて見つけちゃったんですけど……」
そう言ってユーヤが一枚の写真を持ってきた。
「いやだ! そんなもの、捨てちゃって」
「でも……いいんです?」
「いいの。そんなやつ──もう別れたんだから」
「この男のひと、美咲さんを傷つけたんです?」
「傷つけたっていうか……まぁ他に好きなひとができたとかで振られたの、わたし。よくある話」
「ふうん」
しばらく写真を見つめていたユーヤが、わたしと和樹のちょうど間を真っ二つに割るように引き裂くと、和樹のほうを丁寧に細く裂いていった。
「ポイしますね。美咲さんのほうは俺がもらいます」
わたしは目を瞬いて彼の後ろ姿を見送った。
ユーヤは料理がうまい。
父子家庭で育ったから、料理は自分の担当だって言っていた。父親が死んだあとは弟や妹と会うこともなくなった、とも。
「小さい頃はね、料理人になってお店を開くことを夢見ていたこともあったんですよ。美咲さんは夢とかありました?」
「わたし? わたしはねえ……」