サヨナラ-3
大好きなものが、大嫌いなものに変わる瞬間。
「・・・2個もいらないし」
それだけ言うのがやっとだった。
やっぱりそうか。
私にとっては宝物だった鍵も、あなたにとってはどうでもいいのか。
わかってたけど、わかるとキツイ。
「また誰かにやれよ。伝統だ」
「なにが伝統よ。あんたから始まったくせに」
私もなんとか立ち上がる。
戻ろう。あの場所へ。
「行くのか?」
あなたのいないあの場所へ。
「泣きの練習しなきゃね」
歌が聞こえるあの体育館へ。
「お前の涙は、写メんなきゃな」
さびついたドアに手をかける。
ここへはもう、来ないと胸に誓って。
「瞳」
ノブを回していた手を止めて、振り返る。
「楽しかったよ」
あなたは笑う。
私に向かって。
我慢しろ。
我慢しろ。
我慢しろ。
「・・・・私も」
ここで写メなんか撮られたくないもの。
「先輩といれて・・すっごく楽しかった」
笑えているんだろうか?
涙は流れていないだろうか?
足は震えていないだろうか?
せめてせいいっぱいの笑顔をしよう。
きっとあなたは気づかないから。
気づいてなんかほしくないから。
私の涙もこの想いも。
そしてまた、ノブを回す。
初めてだった。
このノブを、こんなに重いと感じたのは。