サヨナラ-2
「よぉ、来たのか」
そっちが呼んだくせにいつもそういう言い方。
黙ったまま私は隣に腰を下ろした。
「出なくていいの?卒業生様」
屋上は本来施錠されていて生徒は入ることが出来ない。
鍵を持ってる私とこの人以外は。
だから会うときはいつもこの屋上。
だけど、もうここにも来なくなるわ。
あなたがいなくなるから。
「俺は明日の本番だけでいーんだよ」
雑誌を退屈そうにパラパラめくりながら、あくびを一つ。
3月のくせに今日はとっても寒かった。
セーター着てくればよかったな。
「どーせお前もさぼってたんだろ?」
「つまんないからね」
「俺がいないから?」
・・・・一体、その自信はどこから来るんだか。
でも図星だからまた何も言わなかった。
わかってるのに聞くんだから、嫌な人。
「・・政央大学に進学だって?」
職員室前の掲示板に堂々と掲示されてた。
我が校初の快挙だって。
「ああ、楽勝楽勝」
こんな奴が最難関の大学に合格しちゃうんだから、世も末ね。
私なんて進級できるかが問題なのに。
「お前も来いよ、政央」
思いがけない言葉に顔を向ける。
こういう事言う時は冗談か本気かわからないから困るんだ。
刹那、見つめ合う。
そして、あなたはパタンと雑誌を閉じて、それで私の頭を叩いた。
「冗談だよ」
けらけら笑いながら立ち上がる。
今回は冗談だった。
本気じゃなくてよかった。
・・・まぁ、本気な訳ないだろうけど。
「ほら」
屋上の手すりにもたれかかってあなたは何かを投げた。
その何かはチャリンと音をたて、私の手の中に収まる。
その何かは、私とあなたを繋ぐもの。
「やるよ。もういらねーからな」
冷たくて、キラキラ光る鍵。