飛び込んできた美少女-1
(あー、今日もごった返してんなぁ・・・)
野田健一は乗り込んだ満員電車のドアにもたれて、車内を眺めていた。
この場所で、音楽を聞きながら佇むのがいつものパターン。
野田がこの場所をお気に入りにしているのは、次の駅を過ぎるとしばらくドアが開かない、ということを知っているからだ。
(毎日毎日、皆様ご苦労なこった。)
自分のことを棚に上げて、そんなことをぼんやり考えていると、電車は次の駅に止まった。
――――プシュー――――
ドアが開くと、野田はホームに降りた。
ドアにもたれるには、最後の乗客になる必要がある。
駅員が野田の背中を電車に押し込むと、ドアはゆっくりと閉まった。
(――ふぅ。)
しばし安泰、と目を閉じる。
動き出した電車に乗客が揺られる。
「きゃ・・っ」
小さな声にうっすらと目を開けると、そこにはやや小柄な少女がいた。
「溝口」
「――あ、野田くん。おはよ」
溝口奈緒子。
野田が通う高校のクラスメイトだ。
目鼻立ちの整った顔、艶やかなロングの黒髪が映える白い肌。
やや控えめな性格だが成績は優秀で、学年でも常にトップクラスに君臨しているため、目立たないということも決してない。
それでいて他人を見下したりすることもない。
学年を問わず人気を博する彼女は、恋人などよりどりみどり――、などと現実はそう甘くない。
奈緒子がいつもフリーでいるのには、理由があった。