飛び込んできた美少女-2
奈緒子は元々、モテない訳ではなかった。
入学して間もないころは、同級生はもちろん上級生からも告白される機会は山ほどあった。
しかし、奈緒子の返事は決まって同じ言葉だった。
「ごめんなさい、そういうの興味なくて・・」
アタックしたすべての男子が玉砕したことで、“溝口奈緒子は男に興味がないらしい”という噂が立ち、淡い恋心を抱える生徒も早々に諦めてしまっていた。
ほかにも、奈緒子を訝しげに見る生徒があった。
見てくれに関心が薄いのだ。
登校してくる奈緒子は毎日、ボサボサの髪に皺くちゃの制服。
他の女子生徒がフルメイクなのに対し、奈緒子が所持するものは、リップクリーム1本。
そんな美に対する無頓着さに、引いてしまう生徒も多かった。
「野田くんもこの電車だったんだねー。」
「ああ、俺はひとつ隣の駅だけどな。」
「この電車で同じ学校の人に会ったの野田くんが初めてだよ。」
話し相手が見つかって嬉しい――そう言って奈緒子が笑った。
そんなとき、電車が大きく揺れた。
ガタン。
「わわっ」
揺れによろめいた奈緒子は、慌ててドアに手をついた。
「逆壁ドンか?」
「えっ」
壁を背にした女性のすぐそばに手をつく、流行りのポーズ。
奈緒子と野田の立場が逆なら完璧なのだが。
「壁ドンの流行はそろそろ下火なんだろ?でも俺、女にやられるとは思わなかったなー。斬新だな。」
「何言ってんのよ、バカ。」
ニヤリと笑ってからかうと、奈緒子が照れくさそうに笑った。
(――――あれ?)
野田は奈緒子がいつもと違うことに気がついた。
(髪が―――よく見ると、制服も)
サラサラと流れる黒髪は、よく手入れされているように美しい。
制服にも皺一つない。
(いつものボサボサ頭はどこいった?制服にもアイロンなんてかけちゃって。)
さてはデートか?などと下世話な推理をしたものの、すぐさま却下した。
(―――ありえないな。こいつに限ってそんなこと。)
電車が止まる。
野田が背にするドアは開かないため気にとめることはないが、人口密度はさらに増える。
「うぅ」
人混みが、奈緒子を押した。
腕を突っ張るだけの距離もなく、ついには野田との間で押しつぶされてしまった。
「ご、ごめんね」
「いや、仕方ないだろ。こんだけぎゅうぎゅうなんだから。」
気にするな、と笑った。
そんな余裕があるのも今だけだということにも気づかずに――。