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a village
【二次創作 その他小説】

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J-6

 水練の授業を終え、雛子逹は学校へ戻って来た。

「なかなか難しいものね……」

 子供逹の、普段と変わらないはしゃぎ様に、雛子は好感触を得たと思ったのだが、どうやら違った様だ。

「そんなに落ち込まないで。初めての場合って、色々、生じるものじゃないですか」
「ええ……」

 慰めの声に頷く雛子だが、言葉は届いて無い。それ程、子供逹の水着に対する“不満”が、重大で深刻に思えたのだ。

 子供逹が言うには、水を吸った水着は、重みを増すだけで無く、生地が弛んで泳ぎに支障を来すそうだ。
 弛みについては小さめの物で対処可能かも知れないが、重くなる点については、耐久性等を加味して生地を厚目に選定した事が、完全に徒(あだ)となってしまっている。

「兄さん、がっかりするだろうな……」

 雛子は俯き、深いため息を吐く──。良かれと思って導入した物に、厳しい査定が下されるのは、当事者にとって苦痛でしかないだろう。
 況してや、今回は、妹に請われて実施した事で有り、その妹から不具合を申告される等とは、露程も考えて無いはずだ。
 そう考える雛子の中には、暗澹たる思いが込み上げていた。

「それは、考え違いと言う物ですよ」

 落ち込む雛子に、林田は、言葉を選びながら持論を切り出す。

「御兄さんにとって貴女は、忌憚(きたん)の無い意見を伝えてくれる、有難がたい存在だと思っておられるはずです。
 ですから、今回の件で、貴女が気に病む必要なんて全く有りません。それより、今後の為に意見をどんどん挙げるべきです」
「林田せんせい……」
「立場が違っても身内な訳ですし。どんなに厳しい意見でも、御兄さんは必ず受け止めてくれるはず。私が保証します」

 何の裏打ちもない言葉──。なのに、林田の助言は雛子の心に深く染み入り、憂患する彼女の心を、明らかに軽くしてくれた。

「あ、ありがとうございます。さっそく兄に、手紙を書いてみます」
「そうそう。その調子ですよ。貴女が暗い顔してると、子供逹が心配します。貴女には“北極星”と成るだけの素質が有るんですから」
「北極星……ですか?」

 林田の話が、あらぬ方向へと傾き出そうとした時、それを遮るが如く、予鈴の鐘が鳴り出した。

「あっ!次の授業が始まっちゃう。林田先生、急ぎましょう」
「は、はい」

 教材を小脇に抱え、職員室を飛び出して行く二人。
 そんな二人のやり取りを、部屋の片隅からじっと見ている者が有った。
 校長の高坂である。右手に封書らしき物を握り締め、何とも苦悩に満ちた形相をしていた。





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