J-20
※1「♪アァイラァブュ、アアイラァブュ、いぃつまでもぉ、いつまでもぉ♪」
段々、歌に熱が入って来る。何時しか林田も、雛子の声に自分の声を、重ね合わせていた。
※1「♪夢うつぅつぅ、さまよいましょう、ほしかげぇのぉ、こぉみちよぉ♪」
漸く歌が止み、二人の足取りが、幾分速くなる。互いを見合せ笑みを交わした。
「この、二番も素敵なんですよね」
※1「“抱かれて、たたずみましょう”って部分でしょう?」
「なんで知ってるの!」
雛子の驚き様に、林田は“言わずものがな”とでも言いたげだ。
「僕だって、何回も聴きましたから」
「私、びっくりしたんです。終戦から五年後に、“アイラブユー”なんて言葉を歌に乗せるなんて。あの頃は、ずっと憧れてました」
「歌詞の様な、色恋にですか?」
「ええっ!大人の恋愛に」
陶酔の中で発した本心。林田は、あえて聞き流す事にした。
「それじゃあ、お休みなさい」
「送って頂いて、有難うございました」
家の前の坂道で、二人は分かれた。
坂道を登る雛子の姿を、林田は暫く眺めていたが、やがて踵を返すと自身の下宿先、椎葉の家へと歩を進めた。
※1「♪アァイラァブュ、アアイラァブュ♪……」
その足取りは、実に軽やかであった。
「a village」J完
※1 題名:星影の小径
作詞:矢野 亮
作曲:利根一郎
歌 :小畑 実
所属:キングレコード