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a village
【二次創作 その他小説】

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J-13


「ああッ!もう」

 雛子は、帰宅した途端、玄関口で文句を吐いた。

「本当に、不真面目で腹立たしい奴!あったまきちゃう」

 小一時間ほど前に起きた林田への憤りは、未だ、収まって無かった。

「くそ!あんな奴、一瞬でも信じた自分が馬鹿みたい」

 玄関を潜ると、強く足を踏み鳴らし、台所へと続く土間を突き進む。その様子は、怒りに満ちていた。
 暖簾を潜り抜け、台所の方から居間へと上がり込むと、襷(たすき)掛けにしていた布鞄を外して無造作に放り投げ、大の字に寝転がった。

「ああ、悔しい!」

 見つめる天井が、段々と滲んでいく。余りの悔しさに、瞳から涙が溢れ出る。

(何で……あんな事言われなきゃならないの)

 雛子は思う。これ迄にも、林田の揶揄には辟易させられ通しだった。
 しかし、その都度、林田は人懐っこい態度で謝罪し、時折、誠実な面を垣間見せ、そして極稀に、胸裡に有る本心を晒してくれた。
 だから私も、時には許し、時には追及し続ける事への馬鹿々しさを覚え、そして、自身の拙さに後悔したりを繰り返しながら、関係の保持に努めて来たつもりだった。

(それを、あんな言い方……)

 林田が、友人の死を語った昨夜。雛子は気が付くと、彼を抱き締めていた。
 いや、そうでは無い。自身は気付いていないが“明確なる理由”は有ったのだ。

 林田の心情に触れた時、雛子は「その哀しみは如何許り(いかばかり)だろうか」と憂いた。

 その直後、彼女の中で、これ迄体験した事も無い、不可思議な感情が涌き上がった。

 林田の中に有る、強い哀しみに対して雛子は、「哀しみは一生、消え去ったりしない。でも、哀しみを共有する事が出来れば、僅かでも心は癒される」と言う、“母性にも似た感情”が、あの時、雛子を支配したのだ。

 穢(けが)れの無い純粋な想い──。そんな衝動に駆られての行為に対し、あんな邪(よこしま)な感情を抱く事自体、忌むべき事なのに、況してや、言葉に出して聞かされるなんて、青天の霹靂(へきれき)としか言えない位、人間性を疑う品性下劣極まりない行為だと、雛子は思っていた。

(もう絶対、口利かない。何時も々、私を小馬鹿にして……)

 感情とは、狭い範疇、とりわけ独り、頭の中で繰り返していると、昂って行き易い物だ。
 特に怒りという感情は、増幅し易く制御が難しいと言う、少々、厄介な代物だ。

 しかし、一般的に怒りが増幅されようとすると、理性と言う、物事を俯瞰的に捉えて感情を抑え込もうとする心が働く。
 だが、この理性が乏しいと怒りは際限りなく増幅を繰返し、仕舞いには、“恨み”へと昇華してしまう場合も多々有る。

 が、しかし──。

(……でも、補習の件では、あんなに言ってくれたし)

 どうやら雛子には、ちゃんと理性が備わっていた様だ。

 ──子供逹は敏感だからな。楽しみながらを心掛けて、ゆっくりとやりなさい。

 ふと先日、父、三朗に掛けられた言葉が頭を掠める。
 視野が狭くなり勝ちな娘に対する、父親としての助言だった。


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