正夢-1
洒落たバーに、二人の会社員がいた。
Bはグラスの桜桃を摘み上げ、平らげた。
「で、話って?」
Aはグラスを口に運ぶと、Bの方をちらりと見る。
「実は…」
Bは神妙な面持ちで話し始めた。
「最近、変な夢を見るんだ」
「どんな?」
Aは「夢かよ」と思いながら、再びグラスを持ち上げた。
「それが…夜道を歩いてると………」
Bは俯き加減で続けた。
Bは仕事に疲れたダルい体を引きずって、帰途についていた。
電車が通る時間をまわった線路の傍らの道を、無機質な街灯の光りが照らしている。
その道を、Bはひたすら歩いていた。
その時、後ろから足音が聞こえて来た。
人気のない道に、後ろから足音が聞こえてきたので、Bは不気味さを感じた。
自然と歩きは早くなる。
すると、その足音も早くなるのだ。
たまらずBは小走りになる。
だが、やはり足音も小走りになるのだった。
足音は、まるで影のようにBの背後にピタリとくっついてくる。
「疲れてるんだよ」
Aはグラスを空けた。
「そうかな…毎日だぜ?」
Bは身震いをすると、バーテンがが出したカクテルを一息に飲み干した。
「ま、気にするなって。同じのをもう一杯」
AはBの肩をポンと叩いた。
バーテンは少し気取ったようにシェイカーを振ると、グラスに中の物を注いだ。
「今日は俺が奢るよ。ジャンジャン呑め」
「悪いな」
Bは差し出されたグラスを、またも一気に飲み干した。
それから一週間くらいだろうか。Bの通夜が営まれたのは。
親族の話では、夜道を何者かに襲われたと言う。
犯人はまだつかまっておらず、警察はお手上げ状態だった。
その晩からであろうか。
Aは変な夢を見た。
電車が全く通らない線路の傍らの道を、無機質な街灯の光りが照らしている。
その道を、Aはひたすら歩いていた。
すると後ろから足音が………。
完