半獣奇譚-1
「雷や」の二階はとてつもなく蒸した。
開け放った障子にはスダレがぶら下がり、外には公園通りの堀端を掬った涼風がそよぐ好天ではあった。
それなのに部屋には及ばず、空気は淀んでいるばかりだった。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
「んっ・・んっ・・ぁ・・・」
股間の密着に衝き揺すられて、そこから漏れ出る熱いしたたりを覚えた。
それはお尻の谷間を伝って、シャリシャリと動く度に擦れる紙の上に染み通る。
「酷えもんだな・・・ザラ半紙なんか敷いてやがる・・・」
果てて体を離した相良はこの部屋には鮮やかに映る朱塗りの椀を開けて、中の白玉をひとつ口に放り込んだ。
ここは公園通りに面した甘味処「雷や」の二階だった。
大正時代の当時は「蕎麦屋の二階」などといって、こうした店舗の二階を区分けして個室として貸し出す商売も流行っていた。
足を伸ばして休憩をとったり、余人交えず談話を交わしたりという名目だったけど、現実には男女の逢い引きを助けるもので、その証に粗末ながら布団が敷いてある。
「どうだい?満足イッたかね?」
私はまだ床に膝を揃えて、股間にあてた懐紙に噴き込まれた精を落としながら障子の向こうを眺めていた。
この向こうには涼しげな公園通りが望めるのだろうが、実際にはスダレしか見えなかった。
「この前の事・・・考えてくれたかい?」
今日もその話だと思った。
呼び出しを受けて分かっていても、来てしまう自分がなんとも情けない・・・
「その事ならもう・・・私はこれで失礼しますわ。」
「洋服ってなぁ、具合がいいねぇ。女の身支度も手間取らずか・・・なぁ、よく考えてみなよ。」
私はすでに脱皮した自分の殻に還るように洋服の背中に足を通していた。
「そんなお金はありませんって・・・先にも申しました。」
「だからさぁ。家屋敷を抵当に入れれば、そのくらいの資金はわけないじゃないか?」
相良は椀に残った白玉を喉に流し込んでしまい、また続けた。
「これからは投資の時代だって。心配ないさ、俺に任せとけば家を取られる事もなく、ずぅと配当が受けられるんだぜ。
それにコトが軌道にさえ乗れば、お前さんと夫婦になる事だって考えてる。」
私はそれが聞こえていまいと襖を開け、階下に下りようとする。
徐々に縮んで、また元の形に戻ろうとする膣孔が鈍い重さを響かせた。
「待てってば、聞けよって!」
まだ帯を回しながら、腕を掴んで引き留めようとした時には私は堀端に待機する車に足をかける寸前だった。
パンっ!
咄嗟に頬が跳ね付けられ、熱く疼いた。