コテージ到着-3
「ちょっと瑞季ちゃん、どうしたのよ」
自分を抱き止める瞳の声が耳元に響き、それが現実の瞳の声だと理解した瑞季はハッとなった。
(あ、あたし…、どうしたの…)
いつもの優しい目で心配そうに覗き込む瞳と目が合い、瑞季は少し冷静になれた。
「だ、大丈夫です…。一人で立てます」
瑞季は動揺を隠すように気丈に振る舞い、瞳の介添えをやんわりと断った。
「そ、そう、無理しないでね」
瞳に続いて、美弥子と恵子が労わりの声を掛けた。
「本当に大丈夫なの?無理せず部屋で少し休むといいわ」
「瑞季さん、遠慮せずに何でも言って下さいね」
卑猥なことを除くと、とても気の良い3人だった。
瞳を始め、自分の様子を見守る女達の目が、心底から心配していることがわかり、瑞季の強張っていた肩の力が、すっと抜けた。
(そ、そうだわ。ずいぶん前にノーパン健康法ってあったじゃないの。多分この人達ってそれを実践してるのね)
瑞季は自分自身を無理矢理に納得させた。
受付が終わり、忠と新司が係りの人を伴って出てきた。
「すみません。ご到着に気付かなくて、お荷物を持たせたままで誠に恐れ入ります」
係りの人は、予想より早い到着に出迎えられなかったことを詫びたが、気の良い一族は一向に気にしてはいなかった。
「いいんですよ。ところで今日は他の客さんは居るんですか?」
「いいえ、今日は大野様の御一行だけですのでごゆっくりお過ごし下さい」
係りの人の答えに、淫乱一家は喜び半分、残念が半分だった。余りにも多いと思う存分楽しめないし、かと言って全くギャラリーが居ないのも寂しいもんだ。全てを望むのは難しい。
しかし、混乱で肩を落とす瑞季と、前屈みに歩き辛そうにする幸樹の『新たな参加者』を見ると、直ぐに気を取り直してにこやかになる淫乱一家だった。
「うわ〜、広いわね〜」
コテージの部屋に入った美弥子が嬉しそうに言った。広々とした空間で行う色んなプレーが美弥子の脳裏を過った。
玄関を入って直ぐ右側に風呂と洗面所、左側にトイレがあり、正面右側にリビング、左側に2間続いて寝室が並んでいた。
リビングを抜けて、そのままウッドデッキのバルコニーに出ると、大きめのジャグジーが備え付けられていた。
「見て見てお義母様、大きなジャグジーがありますよ」
「ほほ、これなら7人で入れるわね。ねっ、瑞季ちゃんもそう思うでしょ」
瞳が嬉しそうに言ったの聞いて、隣に居た瑞季はピクリと反応した。
「えっ、ええ、そ、そうですね。入ろうと思えば入れそう…」
「ちょっと瑞季ちゃん、大丈夫?少し横になったら」
「だ、大丈夫です」
瑞季は気丈に振る舞った。
(そ、そうよ。水着を着たまま入るってことじゃないの。7人で裸で入るなんてありえないわよ。あたしったら何を変な想像してるのかしら…)
さっき感じた美弥子達の『心から心配してくれる姿勢』を思い出し、瑞季は敏感になりすぎていることを反省した。
バルコニーを降りると手入れされた芝が敷かれた20坪ほどの庭が有り、庭の更にその先に目を向けると、目隠しに植えられた植木の間を通して砂浜が見えた。
「見て見て〜、海まで近〜い」
はしゃいだ恵子が浜辺に向かって小走りに駆けた。
植木の間の通路の敷地側には、体を流すシャワーが備え付けられていて、その横を通り抜けると目の前には青々とした海が広がっていた。
「ウワ―――――!海―――――!」
初夏のパノラマと心地よい潮騒に、恵子のテンションは一気に上がった。