瑞季の相談相手-1
【瑞季の相談相手】
『もしもし、瞳お義姉さん、あたし、瑞季です』
「あら瑞季ちゃん、どうしたの?」
『遅い時間にすみません。ちょっと相談したいことがあって…』
恵子の婚約者の母、大野瞳が電話を受けた相手は、亡き夫の妹の大野瑞季だった。瑞季とは昔から何かと気が合い、夫が他界して久しいにも関わらず、現在も疎遠にならずに交流を続けていた。
「相談?あたしにわかるかな」
普段から生真面目で常識的な瑞季が、遅い時間に電話を掛けてくるからよっぽどのことだろう。瞳は少し身構えた。
『え、ええ、お義姉さんにしか相談できなくて…』
自分の汚れた下着に息子が射精したことにショックを受けた瑞季は、思い悩んだ挙句に瞳を相談相手に選んだのだ。
「わかったわ、あたしにわかることならいいわよ。で、どうしたの?」
『そ、そのう…、なんて言ったらいいか…』
瑞季は奥歯に物が挟まったように口籠り、中々切り出すことができなかった。
「なになに、話してくれないと答えようがないじゃない。本当のお姉さんだと思って打ち明けてよ」
瞳は瑞季の心をほぐすように優しく言った。
『は、はい、ごめんなさい。実は幸樹のことなんです…』
「あら幸樹くんのこと。この前見て吃驚したわ。急に大きくなってもう立派な大人ね」
『実はそのことなんです』
瑞季は幸樹が自分の下着と体に興味を持ち始めたことを、しどろもどろしながら打ち明けた。しかし、さすがにその下着に射精されたことまでは言えなかった。
『お義姉さんもシングルマザーで、立派に新司くんを育てたでしょ。お義姉さんにも同じようなこと有ったのか聞きたくて…』
シングルマザーで育て上げた新司は今は会社経営までしている。瑞季にとって瞳と新司の親子は理想だった。離婚後の瑞季はことあるごとに『瞳お義姉さんと新司さんの親子関係はあたしの理想です』と言っていた。
「なあんだそんなことなの」
『そんなことって…』
瑞季にとっては生活の根幹がひっくり返ることだった。軽く返された瞳のその言葉には引っ掛かった。
「あっ、真剣に悩んでるのにごめんね。新司にもそんなことが有ったから、ちょっと懐かしくなっちゃって」
瑞季の生真面目さを気遣った瞳は、謝りながらさらりと自分達のことを言った。
『ほ、本当ですか?』
「そうよ。母親って最も身近な異性だしね。その異性の体に興味を持つのは、思春期の通過儀礼じゃないのかなあ」
瞳は自分の『女』を見せて欲しいと懇願した新司の中学生の頃を思い返した。夫が他界してからセックスをしていなかった瞳は、そのまま新司を受け入れたのだ。懐かしくて楽しい思い出だった。
しかし、最近下着をあまり穿かなくなり、汚れた下着の匂いを嗅いでもらう機会が少なくなったことを少し寂しく思った。