こじらせ処女-12
◇
「お疲れ様でした」
そう言って傳田が俺のデスクの前に備前焼のマグカップと、お茶菓子の煎餅を置く。
先の面談ではコーヒーばかりだったからと、緑茶に切り替えてくれたその心遣いがにくい。
猫舌の俺は、ゆっくりマグカップを唇に近づけ、一口啜ってから、さっきまで田所さんが座っていた空間を眺めていた。
あれから田所さんは、何の迷いもなく契約を交わし、帰ったわけだが、その足取りはスキップでもしそうなくらい軽やかなものだった。
女にとって処女って、童貞と同じで捨てたくてたまらないものなのだろうか?
田所さんが飲んだコーヒーカップを片付ける傳田をよそに、俺は個包装されたサラダ煎餅の袋を破りながら口を開いた。
「なあ、傳田」
「何ですか?」
黒いタイトスカートに真っ白なシャツ。折れそうなくらい細いウエストから、キュッと上がった形のよいヒップを眺めつつ。
「お前、初体験は何歳の頃だった?」
そう問いかけた途端に、ガシャンとトレイの中で白いカップが倒れた。
あー、危ねえ。コーヒー入ってなくてよかった。
「ななな何をいきなり言うんですか!」
「いや、参考までにさ。初体験はいつ?」
トレイを持ったまま、こちらを睨む傳田の顔は真っ赤になっていた。
それはまさに変態を見るような眼差しで。
うーん、コイツはこんな怪しい会社で働いてるくせに、変にウブなんだよなあ。
「な、教えてよ」
セクハラで訴えられたら負けるな、なんてことを考えながら、塩辛いサラダ煎餅を一齧り。
傳田にキレられることが多い俺だが、そこはなんつったってAV男優、変態と思われることはむしろ名誉なことだから、そんな冷めた視線は痛くも痒くもない。
しばらく俺を睨めつけていた傳田だったが、一向に動じないで煎餅をバリバリ齧る俺に観念したのか、
「……19歳の時です」
と、俺の咀嚼音より小さな声で呟いた。
「へえ……」
意外だ。塩辛い煎餅を齧ったまま、思わず彼女の顔を眺めた。
うん、こいつもかなりレベルが高いんだよなあ。
つり目の猫顔のせいか近寄りがたい雰囲気はあるけど、これだけ抜群な容姿の傳田なら、男をとっかえひっかえしていたっておかしくない。
そんな彼女が、ロストバージンが意外と遅めなことに、小さく驚いてしまった。