梅は咲いたが…さくらは…-2
カーステレオから流れる音楽をぼんやりと耳にしながら、隣の那由多の気配から逃げるように車窓から流れる景色を眺めよう試みたけど、二月の夜明けはまだ遅くて、景色らしい景色が見えない暗い窓に向けてため息がひとつ落ちた。
沈黙の中、車の微かな振動と知らない歌手のスローバラードは、早起きの身には眠りを囁かれてるようなものだ。時々意識が途切れて、うつらうつらと船を漕いでしまう。
「眠いなら、無理せず寝とけ」
フロントミラー越しにそんな私を見て小さく笑ってる那由多に気付いて、気恥ずかしさと小憎らしさでひとつ咳払いをして、
「車の中が温かいから眠くなるのっ!」
「ちょ! やめろ、寒っ!」
悔しいから、パワーウインドウのボタンを押して窓を全開にしてやった。
寒いけど、冷たい風を浴びて頭がスッキリしてひとつ息を吐くと、
「昨日は悪かったな」
那由多は呟くように一言を落とした。
「もう忘れましたので、全部」
窓の外を見ながらそれだけ返すと、車内はまた沈黙に包まれた。
夜の色がゆっくりと薄まり、景色があるべき色を取り戻していく様を見つめていたらまた眠気に襲われて、いつの間にか深い眠りに落ちてた。