紫-4
「茜さん。お誕生日おめでとう」
「本当に30になっちゃったよ」
「だね」
「笑うな」
こんな普通の話をしてるなんて。
目の前にいるなんて。
不思議だ。
奏くんと私はそのままタクシーを止めて
奏くんが泊まるはずのホテルにチェックインした。
「ただいま。待たせてごめん」
キスをしながらそう何回も繰り返す。
「お帰り。遅いよ」
キスを返しながらそう何回も繰り返す。
誕生日でドレスアップした私を眺める。
「きれいだな。6年前と何も変わってない」
「そんなことないよ。25歳も26歳も27歳も28歳も!
29歳も・・・私のことを見てないくせに」
「うん。でも俺の心の中の茜さんと何も変わってないよ」
笑いながらキスをするその声が心地いい。
「30歳の今日から。死ぬまで。誕生日は一緒に過ごそう」
「絶対?」
「うん。絶対」
根拠のない自信に今度は私が笑う番だ。
「今度約束を破ったら、ただじゃおかないから」
「うん。もう破らない」
奏くんは私のネックレスをはずして
ワンピースを脱がせた。
「あの日も、ワンピースだったね」
「よく覚えてるのね」
「あの日のことは何ひとつ、忘れてないよ」
私も。
そう、心の中でつぶやいた。