紫-2
「豪だってあのピアノ誰にも弾かせないじゃない。
あなたたち二人はずっと奏くんを待っているのよね」
そう言って響子さんはくすくす笑った。
豪さんはレストランに鎮座するピアノを
調律だけして誰にも弾かせない。
「別に。レストランにピアノ演奏なんかいらないと思っているだけ」
そしらぬ顔をして料理を食べ続けるけど。
「インテリアとしてはスタインウエイは高い買い物ね?」
と響子さんにまた笑われる。
「スタインウエイ?」
相変わらずピアノのことは全く分からない。
「あのピアノのメーカーよ。マンションを買うぐらいするのよ」
バラしちゃうんだから。と響子さんは笑った。
「ヒッ!なんですかその値段は!」
「ね?インテリアにする値段じゃないでしょ?」
響子さんは楽しそうに食事を続けた。
「待ってるのよ。『世界の小野寺』になった奏くんが弾きに来るその日を。ね?」
「・・・・いやなオンナ」
豪さんはそう言って響子さんの頬にキスをした。