植物園へいこう-6
明らかに、もうひとつ下にもっと広い空間がある音だった。
「……探ってみっか」
その前に報告だ、とジルはパソコンのデータをゴーグルに移してスパイディの居る店へ向かう。
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スパイディは黙ってジルの報告を聞いていた。
ただ、今日はいつもと違う。
いつもはどうでも良い、と言わんばかりの表情が見えない顔で聞いているのに、今日に限っては食い入るように熱心に聞いているのだ。
「……そう……そこにあったんだ……」
報告が終わるとスパイディは呟き、喉を鳴らして笑う。
「?」
笑い方がいつも以上に不気味で、ジルは冷や汗が止まらない。
「で、ですね、今夜辺り探ってみようかと……」
「ああ、もう良い」
「へ?」
「良い。アンタ……名前、なんだっけ?」
「ジルっすけど……」
「ああ、そう。アンタ、もう良いよ」
「はい?」
「えっと……あの王様、あれの偵察はもう良い」
スパイディの言葉にジルは口をあんぐりさせる。
長い時間をかけて秘密通路を調べあげ、重要そうな施設も見つけた。
だが、まだそれだけしか分かっていない。
肝心なカウル=レウム王の秘密とやらは何ひとつ分かっていないのだ。
「あの?」
「ゴーグルのナビシステム、完成いつ?」
「あっと……あとは中継アンテナ設置が必要っす。小さいのでも数を増やせば何とかなるかと……」
「じゃそれ。急いで」
「あ、はい」
ジルの言いたい事が分かっているかのように、スパイディは畳み掛けて言い、ジルをさっさと下がらせた。
薄暗く不気味な部屋から出られたというのに、ジルはモヤモヤしたままだった。
いつもなら罰が無かったら安堵して駆け足でアパートに戻るのに、今日は足が重い。
(納得いかねぇ)
どんなに悪どい仕事でもやるからにはプロ意識で望んできた。
時間はかかっても仕事はきっちり、完璧に成功させてきたのだ。
だからカウル=レウム王の秘密を探る、という重要な密偵を任された。
内容はともかく、自分の腕を認められ、評価されているのは誇りだった。
なのに、まだ何も出来て無いのに……。
(……あいつが知りたかった事は分かったって事か?)
ジルは立ち止まってふと考える。