迫りくる脅威-2
「ふぅ〜〜ッ 参ったぜ!」
単独インタビューどころか、大勢の記者たちに取り囲まれ質問攻めにされる詩織に近づくこともできず、彼女をようやく捕まえたのは1時間も後の事だ。岡崎教授と詩織によると、三種の神器はレプリカだという事が判明したという発表が成され、記者たちも少々がっかりとして帰って行った。
「ごめんね、速水君 随分お待たせしちゃったわね」
「四省堂一の美人店員にして、考古学者並みの明晰な頭脳を持つ鴻池詩織嬢に単独でお会い戴けるんだから、待った甲斐があったもんだぜ」
気遣ってくれる詩織に、精一杯見栄を張って答える薫だ。だが傍らで佇む彼女は大きなウインドウに仕舞い込まれた三種の神器を見つめたまま浮かぬ表情だ。いずれも錆び切っていて、何の知識もない薫には古道具にしか見えない。
「でも、これはやっぱり偽物だったんだってな まぁ、そうだよね そんな貴重なものが、そうそう見つかるはずはない」
「実はね…速水君 記者さんたちにお話ししたことは全部嘘…これは本物よ!」
囁くように、それでいて真剣そのものの詩織の美貌に息をのむ薫。 ここ
「どういう事だ!?」
「古文書『日戦神示』によると、この八咫鏡・八尺瓊勾玉・草薙剣は想像もつかないほどの霊力を持っているらしいわ それこそ、帝都東京を揺るがすほどの… もしこれを悪用されたら大変なことになる… 遠い昔にもこの秘宝の霊力を悪用しようとした人たちは存在したらしいわ 『日戦神示』を読み解くことでそれは明らかになる」
「悪用って?」
詩織の意図を確かめようと質問を続けようとしたその時だった。
激しい轟音と共に破壊される店内。泣き叫ぶ客。この世の終わりかと見まがうほどの阿鼻叫喚が老舗書店を襲う。
影のように忍び寄る無数の男たち。髑髏マスクにラバースーツを着込み、手には鉄の爪先をはめた戦闘員たちは客を追い回し、店内を破壊しつくし、人々を制圧しにかかる。
「な、何もんだ、あいつぁ!?」
祐樹が美緒を庇いながら、叫ぶ。
「わからん…まさか、あいつらが…」
日々、伝え聞く情報から薫には心当たりがあった。
「危ないわ!」
詩織は、店内で転倒し迫りくる髑髏マスクの鉄の爪に貫かれんとしている幼児を守るべく覆いかぶさる。襲い掛かる邪悪たちを前に血の気の多い、薫と祐樹が燃えないはずはなかった。2人は店内に散乱した鉄柱の破片を手にすると、髑髏マスクの脳天に振り下ろす。
「昔から、帝都一番のワルの前で悪事を働こうなんて10年早いぜ」
高校時代はかなりのワルだった祐樹の動きに呼応するかのように、薫も負けじと拳を邪まなる者の顔面に叩き付けた。
「ガキの頃の事はあんまり自慢できる話じゃないけどな」
どんな時でも、子供時代に戻れるナイスコンビネーションだ。皆、人々は連携プレーで助け合う中、観覧客のほぼ全員が、避難を終えた。
「詩織ちゃん!!」
勇敢にも人々の救出に懸命に取り組む紅一点、詩織は最後のはぐれ児を抱きしめながら薫に駆け寄る。
「速水君、この子をお願い!!」
薫の手から無事母の手に戻った少女に安堵した詩織。だが、その白く細い首に黒い大きな蛇のような鞭がピシッと巻き付いた。