藍-1
「・・・・分かった。スカラを受けるよ」
奏くんは私を安心させるように言った。
うん。うん・・・・うん。
せっかくのチャンスだもの。
誰もが欲しがるチャンスなのよ。
「お別れだね」
「そうね」
泣いちゃだめだ。
「待っててなんて言わないよ」
「待ってるなんて言わないわ」
泣いちゃだめだ。
「有名になるなんて約束できないからね」
「約束ぐらいしなさいよ」
泣いちゃ・・・だめだ。
瞬きをしたら、目のふちに溜まった涙がこぼれおちちゃう。
そんな私を見て苦笑いした後に
奏くんは椅子から立ち上がって私を抱きしめた。
「これは独り言なんだけど。
5年だ。絶対に5年で大きなタイトルを取って戻ってくる。
5年だけ。俺に時間を頂戴」
ギュッと私を抱きしめる手に力を込めた。
「5年なんか待てる訳ないでしょ!30になっちゃうわ!」
「そうだね」
そういって奏くんは笑った。
「失礼ね!笑うなんて!
・・・・私の事を気にしちゃだめよ。
期限も決めちゃだめ。自分に足かせを付けないで。
思い切り与えられた環境で気が済むまで勉強して来て」
大きなため息とともに再び私を抱きしめる手に力を込めた。
「何年でも待ってるって素直に言えば良いのに」
「何年でも待ってて欲しいって素直に言えば良いのに」
もう涙を我慢するのは無理だった。