青-6
「ね。奏くん」
「ん?」
「私、芽の出ないタダの音大生とずっと一緒にいるつもりなんかないわよ」
「・・・え」
「確かに今は楽しいけど。
ここ数週間、コンクールのためになかなか会えなかったわよね。
私、そんなのつまらないし耐える気もないんだけど」
「・・・・」
私の手をつかむ奏くんの手に力が入った。
「これでも、一流企業のOLなのよ。
私ね、エリートと結婚するのが目標なのよね」
じっと私を見つめる。その目が悲しみから憎しみに変わった。
その後、奏くんはふいに私の手が震えているのに気が付いた。
「スカラシップを辞退するのは奏くんの自由よ。
でもね。ずっと日本にいて、いったいピアニストとして成功するの?」
「・・・・」
「成功しないピアニストって?おうちでピアノの先生でもするつもり?
そんな人と結婚するのはごめんよ?」
奏くんが目を伏せる。
きっと。私の手が震えているのを感じてる。
「茜さん」
「私がいないと弾けないの?そんなピアノやめてしまいなさいよ。
私は奏くんの演奏に責任なんか持てないわ」
「・・・・」
いつまでも止まらない私の手の震えを落ち着かせるように
奏くんは優しく握り直した。
「茜さん。分かったから」
「優勝したのは私のおかげだって言ったわね?
じゃぁ、優勝しなかったら私のせいなの?」
「違っ!」
「違わないわよ。奏くんは自分の実力のなさを怖がっているだけよ」
「所詮あなたの音は私がいなければ、モノトーンなんだわ」