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虹色の楽譜
【女性向け 官能小説】

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私が返事に困って何も言えないでいると奏くんは
「ごめん」
とつぶやいた。

「中学生になったころから、何かが違うと思い始めた。
俺にはテクニックしかなかった。
感情面での表現が―――分からなかったんだ」

「・・・・」

「allegrettoと書いてあればやや速くには弾けるさ。
crescendoと書いてあればだんだん強くにも弾ける。
けど。
cantabileと言われたって歌うようになんか弾けない。
ましてcon amoreと言われたら、愛情を込める感情なんか経験した事がないんだ」

「奏くん・・・・」

「コンクールの課題曲さえ、段々弾けなくなっていった。
指なら動くんだ。でも感情が付いて行かないんだ。
どう表現したらいいのか分からなかった」

「・・・・」

「それでも、テクニックで音大に入学したけど。
教授も母親も俺の将来は期待していなかった。
そんな俺を見かねて。豪さんがレストランで雇ってくれたんだ。
そのレストランで茜さんを見つけて。
初めて人の気を惹くために弾いた」

「うん」

「楽しかった。初めてピアノを楽しいと思った。
茜さんとデートして、楽しくて、cantabileの歌うように、が分かった気がした。
演奏のための感情はすべて茜さんとのことを思い浮かべれば
簡単に指先に乗ってきたんだ。
そんな俺の演奏を茜さんは好きだと言ってくれたね。嬉しかった。
俺の今日の演奏は全て茜さんからもらったものだよ。
ありがとう。
今日の演奏は茜さんのために弾いた。優勝は茜さんのモノだ」



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