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春雷
【女性向け 官能小説】

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ノースポールは風に揺れ(2)-2


走り去って行き着いた場所は、結局キッチンだった。

「どいつもこいつも身勝手じゃないか!」

貯蔵庫からキャベツを取りだし、

「どいつもこいつも、みーんな自分の事ばっか!」

牛刀を持ち、ひたすらキャベツを千切りにする。

「あ〜めんどくさいっ! 好きとかめんどくさいっ!」

まな板の上にどんどん千切りが貯まっていく。だけどお構い無しで私はひたすら包丁を動かした。
キャベツ一玉が千切りの山になって刻むものがなくなると、

「…一番身勝手なのは私じゃないか…」

場に耐えきれずに、大嫌いだなんて捨て台詞を投げて、逃げたんだもん。これ以上の身勝手はないよね…。
ぽつりと気持ちがこぼれた。
千切りの山をぼんやり眺めて時間を止めていると、

「やるやれ全く、昼間っから騒がしい事騒がしい事」

背中から聞こえた声にはっとして振り返ると、

「挙げ句、キャベツに八つ当たりとか…全くアンタって子は…」

オーナーが溜め息混じりにひとつ笑んで私を見つめていた。

「…べ、別に八つ当たりなんかじゃ…」

千切りの山をザルに移してボールに重ねて、シンクに置いて水に晒しながら、まな板や包丁を片付ると、

「見目麗しくピュアな男二人を振り回すなんて…中々やるじゃない、この悪女め〜♪」

「あっ、悪女とかちがっ! てか、なんですか急にっ!」

焦ってオーナーを見ると、

「だって、さっきのやり合い全て丸聞こえだったんだもの。もうっ、なんなのその羨ましい展開ったら全く憎らしいわね」

私に歩み寄り、

「私の愛する那由多から求愛されるなんて、昴ったら、ほんっっと憎らしい子っ!」

「いたっ! ちょっと頬っぺ痛い〜っ!」

にこやかに頬っぺたをつねってくるオーナーに、なんだか心が休まる自分がいた。

「私だって那由多とキスしたいのに〜〜っ!」

「そ、そんな事言うならもっと積極的に那由多に求愛でもおねだりでもなんでもすればいいじゃないですかっ」

「してるわよっ、毎日欠かさずねっ! そして毎日フラれ続けて早五年。愛の囁きはもう馴れ親しんだ挨拶にまで成り下がってしまうくらいにねっ」

後ろにひとつに束ねた、長くて艶やかな黒髪を指先で弄びながら、エキゾチックで綺麗な面持ちで薄い唇を尖らすオーナーを見てつくづく思う。

…本当、この人、男にしとくには勿体無いくらい女子力高いなぁ…。

「あ〜あっ、なあ〜んでこんなちんちくりんで色気のない子がモテてるのか、今世紀最大の謎だわっ」

「本当ですよね〜、なぁ〜んで私なんかがいいんだかサッパリわかんないです」

水に晒したキャベツのザルを引き上げて、水切りをしながら、

「うんうん、オーナーのほうが私の千倍色気があって綺麗なのに」

「まあ♪ アンタ、わかってるじゃない? でしょ? でしょ? あ〜ん、もっと誉めて誉めて〜っ!」

…オーナーって、本当、誉められるの大好きだなぁ。

「てか、オーナーのほうがモテモテじゃないですか。那由多だけじゃなくオーナー目当てで来店されるお客様だって沢山いるわけだし」

「ふんっ! 恋の潤いの足しにもなりゃしない雌なんかにモテても全然嬉しくないわよっ! 私は素敵な殿方にちやほやされたいのよっ!」

「…それ、お客様が聞いたら泣きますよ…」

「大丈夫よ、お客様の前ではヘマはしないから」

自信満々な流し目は流石というかなんというか。

「オーナーって本当に凄いですね。私もオーナーみたいな技量と度胸が欲しいです」

自分の情けなさに苦い溜め息がでた私に、

「度胸が欲しいなら、さっさと処女を捨てなさいな」

「なっ!! なんでそうなるんですかっ!!」

「男とセックスするくらいの事すら怖がってるままじゃ、度胸なんてつくわけないじゃない」

「…そういうもんなんでしょうか?」

疑いの眼差し混じりにオーナーに尋ねると、

「嘘だと思うなら、騙されたと思ってしてごらんなさいよ。なんなら、佳那汰と那由多と3Pでもしてみたら?」

「ば! そ、そんなタチの悪い冗談言うの止めてくださいよっ!」

焦って声を張り上げてしまった私に、

「ほ〜んと、アンタをからかうと面白いわ〜♪」

オーナーはクスクスと笑って、

「まあ、悩むだけ悩みなさいな。今しか出来ない事を逃さないようにね〜」

ヒラヒラと手を振り、キッチンから去っていった。

「今しか出来ない事…か…。まあ、私にはやっぱり仕事だよ仕事、うん」

そう無理矢理結論付けて、千切りしたキャベツを冷蔵庫にしまった。




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