北島美枝の話-1
風俗で働く女の人で幸福をつかむ人だけを書いてみました。幸福になり方も色々とあるだろうと全体を風俗群像と括り、一人の女性を完結。また新しい女性像が浮かんだらあらためて完結させて投稿をしたいと思っています。
風俗群像
北島美枝の話
北島美枝は兵庫県の北側日本海に面した小さな漁村で生まれた。父親の北島和彦は雇われ漁師の二代目である。何時かは中古の漁船でいいから手に入れて舟持ちの漁師になりたいと頑張っているが、中々資金が貯まらない。
祖父北島勝俊は、昭和一桁の生まれで、丹波篠山の近くの山で代々山守りをしていたのであるが、勝俊一人が村を出て海辺にきて、北兵庫水産の舟に乗って雇われ漁師となった。経験のない勝俊は一人前の漁師になるのに相当苦労をした。
祖母の恵子はこの浜にある北兵庫水産の事業場で水揚げされた魚介類の仕分け、氷詰め、発送などの仕事をしていたが沖から帰る勝俊と恋仲になって結婚をした。
父親の和彦も、祖父と同じように、浜で働いていた美香と恋仲になって結婚をした。
祖父達には子供が恵まれず和彦一人だけを生むと祖母の恵子は子供に恵まれなかった。
祖父達は一人息子の結婚に当たって、鎮守様に願掛けをして子宝に恵まれますようにと、自分で沖で釣った大きな鯛を奉納した。
願いが叶ったのか、結婚の翌年に長女の美枝が二年あけて次女の晴枝、二年をおいて三女の咲枝が生まれたが、祖父や両親の願う男児が生まれてこない、祖父はまた沖に出て鯛を釣り上げて鎮守様に願を掛けた。その甲斐があって長男直人が生まれたときは、赤飯を炊いて村中に配って祝った。
子供の四人は何の障碍もなくすくすく育った。祖母も母親の美香も近隣に聞こえた美女であったから、その血を引いたのか娘の三人は評判の美人姉妹だと三人の動向を村中が見守っていた。
村は町村合併で亡くなったが村の人も、他村の人も、村と言う言葉から離れられず未だに「オレの村」と言っている。
村には小学校はあるが中学校は隣の村に合併されて、小学校を終わると十三キロぐらいある距離をバスか自転車で通学しなければならなくなった。美枝の家は村の西はずれにあり村を横切るだけでも四キロはあったから、小学校を終えたばかりの美枝には大変な苦痛であった。
三年間通学しきったその実績が後年の美枝の忍耐力に繋がっている。
美枝は、中学の制服を着て近所の人に披露をすると、みんなが東京に行ってタレントになればと言う。背丈はあるし、身体は引き締まってスタイルがよい。入学式が終わるとすぐに、上級生の男が周りに集まって来た。
「オイ、お前別嬪やな、オレとつきあえよ」
「おまえなんか、背も低いのに大きな顔をするな。美枝、オレとつきあえよ」
「二年生が、まだガキのくせに偉そうな口きくな、今日の帰りはオレと一緒にな」
浜で若い男達からみっちりと教育を受けたから、美枝は相手にしなかった。
入学して一月経った日に、男子生徒五人ほどが帰宅道の峠の登り口で美枝を待ち伏せしていた。
「何か用ですか」
「そうよ、俺たちと付き合えよ」
「なんで」
「可愛がってやるから、付いてこい」
「あほか、何で私がいかにゃいかんの」
「ほうー。付いて来んってか、いてまうぞ」
美枝は目に付けていた太い木の枝を持って、五人の男に向かっていった。
「みんなに言っとき、今度こんなことをしたら、はらわた捌いてやるから、腹かっ切るのは慣れてっさかい」
次の日から美枝は木刀を持って登校した。
「美枝、それどうするの、剣道部にでも入るの」
美枝が木刀を持って登下校しているということが一斉に学校中の評判になった。
「北島、何で木刀を持って学校に来ているんだ」
「最近峠で猪が出ますんで用心のためです」
「そうか、猪か、頭が黒いんか」
「まだ見てませんから、分かりません」
先生は笑っていた。凄い女生徒が入学したもんだ。美人だのにな。
三年間、男子生徒の美枝に対する嫌がらせはなかった。一回だけ美枝は木刀を使って相手の尻をしたたかに叩いたことがあった。卒業して二年後夫となった父の勤める北兵庫水産の社長の息子和希であった。もういい大人である。
「おまえ、うちの漁師の北島の娘だってな」
「そうですけれど」
「ほんまに、別嬪やな。ドヤ、付き合えよ、今何年や」
「三年です」
「そうか、胸も好い、裸が見たいな」
「帰りますから」
「ええやんか、オヤジにはオレから言っておくから、来いよ」
「何するんですか」
「木刀を持って、撲ってみい」
掴みかかってきたので、美枝は和希の尻を思いっきり殴りつけた。和希はへたり込んでしまって、
「おい、おまえら、この娘イテ仕舞え」