北島美枝の話-4
四日帰ってこなかった。美枝は、
「義母さん、和希さん帰ってきませんの四日、何か聞いておられます」
「しょうがない子ね。美枝さんと結婚して直ったかと思っていたのに」
「以前にもあったのですか、こんなこと」
「女が出来ると、いつものことでね。帰ってきますよそのうちに」
「そのうちだなんって」
義母はあまり心配しないのでこれ以上は聞けないと美穂を抱いて自室に戻ると、携帯をとって和希の携帯に電話をした。電源が切れていた。
その翌日帰らなくなって五日目に昼過ぎに女を連れて帰ってきた。
「和希さん、お帰りなさい、お客さん?」
「おふくろは?」
「会社よ」
「そうか、美枝、お前里に帰れ、俺こいつと結婚する」
「石川沙織です、よろしく。あんたが美枝さん?。和希、綺麗な人じゃないの」
「そうか、お前のほうがぐんと痺れるよ」
美枝の目の前で抱き合ってキスをする。美枝はあきれてものが言えない。
「美枝、美穂を連れて帰れ、荷物は後から送ってやる」
「義母さんはご存知なんですか」
「ああ、知っているよ」
「分かりました、荷物をまとめます。残りは送ってくださいね」
美枝は離れに戻って、妊娠しているので少しだけの荷物をまとめて美穂を抱いて母屋に戻り。
「和希さん、お分かれですね」
美穂をソファーにおいて、
「感謝の気持ちよ、少々痛いけれど我慢してね私の気持ちが篭っているんだから」
拳を握って思いっきり和希の左頬を殴りつけた。和希はひっくり返って倒れ、起き上がれない、
「何するのよ」
「沙織さん、感謝の気持ちよ、義母さんによろしく言っといてね」
美穂を抱いて竹内の家を出た。腹が立ってあの一発じゃ足らんは、と吐き捨てるように言うと駅の方に向かった。
自分の家のある駅に降りると美枝は真っ直ぐ波止場に向かった。母は波止場でおばちゃん達と混じって仕事をしていた。
「あら、美枝ちゃん、美香さん、美枝ちゃん美穂ちゃん連れて」
「やー、美枝お帰り、どうしたの」
「和希さん女ができて、私追い出された」
「この間誰かが町へ出て和希さん女連れて歩いていたよ、って言っていたが。お前追い出されたか・・・・・美穂ちゃん、ようきたな、どれお祖母ちゃんのところにおいで」
「美香さん、そんな汚い格好で」
「そうか、おん出されたか、それもいいやな」
「お礼に一発殴ってやった」
「ぶっ倒れたろう」
「すずさん。倒れて起き上がれなかった」
「ようやった、浜の女の意地を見せとかんとな」
その日の夜に山田康平が来て、和希が顔を腫らして寝ていると言った。そして、
「縁を切ると、奥様がおっしゃってました」
「そうですか、結構でございますよ。大事な娘を傷物にされて、しかも女を連れ込んで美枝に、出て行けというなんて、美穂とお腹に子供がいるんですよ」
次の日に美枝の荷物が軽トラに積んで送られてきた。和希の父親は美枝が好きであった。この女となら和希は自分の後をついで会社をやってくれるだろう、と喜んでいたが、駄目になってしまってがっかりしている、と荷物を持って再度来訪した山田康平が美枝に話して
「これは社長の気持ちだから、取っておいて。浜で働くならまた働いていいよ。とおっしゃってました」
少し厚い封筒を美枝に渡して帰っていった。中に七百万円あった。慰謝料かな、と美枝は波止場の店にある銀行のATMに振り込んだ。
浜のおばちゃん達や漁師達とのにぎやかな毎日が美枝に戻ってきた。みんなが妊娠している美枝を気遣ってくれる。予定日の五日前に医者から言われて町の産婦人科医院に入院した。美穂もここでお産をした。
「美枝さん。、お金の心配はしなくていいから、竹内さんがみんな出すと言ってこられたから」
入院した翌日和希の父親の竹内正之輔が見舞いに来た。
「お義父さん、今回は申し訳ありませんでした。私が和希さんの妻として至らなかったのです。お詫び申し上げます。それに過日は結構なものをいただき、浜でまた働かせていただけるようにしてくださいまして、本当にありがとうございます。このたびの入院のこともご心配をおかけしまして、申し訳ありません」
「美枝さん、こちらこそお詫びしなくてはならないのですからもうこの度のことは忘れてください。せっかくいいお嫁さんに恵まれたと私は喜んでいましたのに、和希は・・・・・親の教育が悪かったのですね。あの子の母親は和希に甘くてね。大事なお嫁さんを逃がしてしまいました」
それから二人でいろいろと話をして、浜の松岡に美枝さんのことはしっかり言いつけてあるから、といって病院を去った。
義父の竹内正之輔が帰った後から、しくしくと痛みが来て翌日の朝に長男の俊和を出産した。美穂のときより軽いお産であった。
俊和という命名は義父の正之輔が考えて美和にどうかと言った。美枝はいい名前だと承諾して出生届を出した。父親は和希と書き込んだ。姓は離婚と同時に元の北島に戻し、美穂の養育権も今回出産した俊和も美枝の手にあるように届けを出した。