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 線が太い
【初恋 恋愛小説】

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 線が太い -1

 線が太い

 平野優凪 (やさなぎ)は三十五才の女性である。男のような名前であるが、スタイルの良い美人である。工業高校の機械科を卒業して寺島精機株式会社に入社して設計課に勤務、今年の春から設計二係の係長になった。

 設計二係は寺島精機の主製品、食品加工装置の新しい部門「おにぎり自動製造器」の開発を担当している。米を研ぐところから、コンビに並ぶおにぎりのあの形までを自動的に製造する製造器を造り売り出して、更に改良を加えようと日夜努力をしている。

 おにぎりは日本の文化であるから国内には同じような自動おにぎり製造器を作って販売している業者が何社か有るので、各社とも自社の開発した小さな部品の一つにも特許を申請して他社の模倣を防いでいる。

 渡辺伸吾三十五才、大学工学部の機械科を卒業して、平野優凪より四年遅れて入社して、社内の各部門を二年ぐら勤務してから次の部門へ移動して全部を回り終えてただ一つ残っていた設計課に優凪が係長に任命された日に移動をしてきた。十三年かけて会社の全部門を廻った。伸吾がおそらく全従業員の中でただ一人、会社の総てを経験し会得していた。

 伸吾は温和しい性格で目立つ存在ではない、優凪の係に配属されて末席に座っている。

「渡辺君、コレをチェックして、今受け取ったから表紙の履歴に、受け取った日にち、時間を記入して、署名」

「ハイ、係長の下にですね」

「機密事項が多いから。中を良く精査をして特許の侵害の恐れがあるのを、書き出して」

「承知しました」

 新製品の設計図だな、優斗は察知したが何も言わずに受け取って自分の製図板に向かうと、先ず全体図を広げた。

「線が太い、やり直し、こんな重いカバーをどうして持ち上げるのよ」

 優凪の透き通る声が室内に響いた。

「例の、線が太い、が出たよ」

 係の何人かがこそこそと笑った。

「係長の癖ですか」

「そうだよ渡辺君、あの綺麗な人が、このときとばかりに大声を上げるんだ」

「線が太いとは」

「ホラ図面の線が太いと縮尺を原寸にしたらとんでも無い厚みになるでしょう」
「現場は、仕様書で判断しますが」

「分かてても、設計図を見た瞬間、他人は厚みを感じると言うんだね」

「係長の持論」


「渡辺君、ちょっと、このマイクロねじ、ひどいんじゃない、線が太い」

「そうでした、訂正します」

 来たな、伸吾は苦笑いをして訂正をした。


「渡辺君、残業をするの」

「はい、係長、今日中に仕上げて明日渡さないと工程的に無理ですから」

「そうですか、終わったら何時でも良いから電話を頂戴、引き渡し書を作らないといけないから」

「分かりました、出来るだけ早くチェックを終わります」

 優凪が伸吾の側を離れると、良い香りがした、振り向くとスカートの裾をなびかせて部屋を出て行く優凪の後ろ姿が妙に伸吾の目に焼き付いた。

「奇麗だな、彼氏が居るのかな、結婚? リングをしていないからまだなのだろう」

 余韻を胸一杯吸い込んで仕事に戻った。

 優凪は、風呂に入って自分の裸体を見る。この身体は誰にも劣らない自信があるのに、どうして男が出来ないのだろう。・・・・・・このところ癖になった指を割れ目に入れてなぞる。中に入れる、本には一人エッチが事細かに書いてある。本の記事を思い出して先に進もう、どうしてもこの先へ指が出せない。



 寝ようかな、と時計を見ると間もなく午前0時である。

「渡辺君、まだ頑張っているんかな」

 と、考えていると、そうだ、中学の同級生に渡辺っていたが、・・・・・・卒業アルバムを出して見てみると、渡辺が写っている。今と変わらないな、なんとなくぼうっとして目立たない。すっかり忘れていた。電話が鳴った。

「係長終わりました」

「そう、ご苦労さん、今から行きます」


「終わったの、問題のあるところは何カ所」

「はっきり特許侵害しているのが五ヶ所、危ないところが十ヶ所、対策として、当社の部品で応用できますのでその部品番号を記入しておきました」

「分かりました、引き継ぎ書を作りましょう」

「明日の朝でもいいんでは有りませんか」

「そうは行かないの、きっちり日にち時間を入れておかないと」

 優凪(やさなぎ)は直ぐに書類を作ると金庫に仕舞い、

「渡辺君、送っていくから」

「別に、独りもんですから、ここに寝ても良いですから」

「渡辺君は中学で一緒のクラスの渡辺君でしょう」

「そうですよ、気がつきましたかナギさん」

「何で黙っていたの、恥ずかしいところを一杯見てたんでしょう」

「配属されて直ぐに気がつきましたよ、ナギさん変わらず奇麗だから」

「渡部君は温和しくて、目立たなかったから、そうだ、文六達に倒されて、乳は触られるは、スカートをめくられるは、・・・・・あの時先生が来た、と叫んだのは、渡辺君だったでしょう」

「そんなことがあったんですか、文六、あいつは悪い奴だったが、今は米屋を継いでいますよ」


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