りんご-2
居酒屋次郎はまだ多くの客が居た。祥子が入ると、飲んでいた客の視線が一斉に祥子に集まった。一緒に入った男姓が木村で、さえない男がどうしてこんな美人と?
「祥子さんとお付き合いするようになって、・・・・・・五ヶ月になるね」
「去年の十一月、リンゴを持ってこられて」
「そうだ、彼の家に行って、リンゴを貰って、店を教えて貰い、祥子さんに会った」
「大分以前からのお知り合いのような気がしますが」
「僕もそうなんだな。妹がいてね、大分年が離れているんだが、祥子さんと知り合う頃が丁度家を出て一年ぐらいかな、結婚してね、旦那がアメリ駐在になって」
「それでお一人に」
「年が離れていて甘えん坊だったが、居るときは何かと煩かったが、居なくなると淋しいね」
「ここだよ、うちへ寄る?」
「ここでしたの、何時も前を通って店に出ていますのに」
「古い家だから、気味が悪いかな」
「今晩泊めて頂戴、いいでしょう」
「幾つも部屋が空いているからどうぞ」
祥子は木村の家に上がると大きく息を吸い込んで、吐いて、三回ほど繰り返すと、
「やっぱり木の家はいいです、気持ちが安らぐ、ここへ引っ越ししても良いですか」
「僕と同居するの」
「はい、決めました。宜しくお願いします」
「一寸強引だけれど、いいよ。僕も一人は淋しいものね」
希望の部屋を祥子が使うことにした。
「布団なんか押し入れにあるから出して使っていいよ。それから。寒いから電気毛布もあるから使って」
「パジャマが要るでしょう、妹が置いていってないかな。この部屋は妹が使っていたから、タンスを開けてみて」
と、祥子を残して自分の部屋に戻り、布団に潜り込んだ。美人の祥子が同居するとなると人が何と言うかな、と少し興味を覚えた。明日から淋しくないな。
うとうととしたときに祥子が耳許で、
「木村さん、寝ちゃった」
「どうしたの、祥子さん、何か解らないことでも、洗面所とトイレ、浴室さっき教えたでしょう」
「淋しいから一緒に寝て」
と、木村が返事する間もなく布団をめくると木村に抱きついた。
「祥子さん、僕男だよ」
布団を祥子に掛けてやりながら木村が言う。
「解ってますよ、でも、良いの。淋しいから」
木村は、妹が嫁ぐ前の夜祥子のように布団に潜り込んできて、
「お兄ちゃん、お父さん、お母さんが亡くなった後私を抱いて寝てくれたね」
と、一晩二人抱き合って寝たことを思い出した。祥子も同じように抱きついている。暖かい、洗剤の良い香りがする。
翌朝、祥子に起こされた。
「木村さん、お勤めは、何時に家を出るの?ご飯の用意できたわよ」
「僕は、サラリーマンでないよ。一日家にいるよ」
「そうなの、働かないんだ。でも私お腹が空いた」
「朝ご飯は食べるよ」
と、起きあがると祥子はくすっと笑った。
「何がおかしいの?」
「木村さん、男だね」