弐之叙 〜ミ・ドリ語り〜-1
機構軍の本部は「
だが調教士殿は、「土星艦隊」の接近を承知の上で、ルリアさまと結ばれる決心をなさったのだ。「艦隊」の意図が何であれ、木星圏の軍事的指導者の婿という立場の重さは、承知の上でのことだろう。最悪の場合、はるか旧時代の出来事、歴史書の言葉と思われていた惑星間戦争という未曾有の事態となり、おそらく千年単位の年表にもルリアさまの名前は載ることになる。その婿なのだ。調教士殿の選択には、素直に敬意を表したい。愛と勇気。彼はそれをわたしたちに教えてくれた。
それに免じ、また彼を選んだルリアさまに気持ちに配慮し、わたしはあれやこれや言うのはやめにして、わたしが任された規格統一の
ジェニファーさんは、機構軍のスガーニー代表としてフカリス星に赴任した。リリアさんは変わらずナディーカ姫に仕える一方、彼女の名代として、時折トゥーロパ星に行く仕事を始められたようだ。ジャニスさまは基本的にはこのオイオに籍を置きつつも、連絡係として同じようにスガーニーとの間を往復している。そしてわたしも、どなたかの提案かはわからないが、ふた月に一度ほどスガーニーに出向いている。規格統一化の仕事でもあるのだが‥‥。シャトル・シップは便利だ。
調教士殿は、公的な立場としては、「開明府」に新設された汎木星圏淑女調整局という機関の長になった。小さな組織だが、スガーニーのザヴォーズやわが国の工廠、またトゥーロパやフカリスの同様の機関と連携し、あの羞恥服や各種器具等、わたしたちの調教に使った用具・衣装の情報を整理し、可能ならば新たな物を開発を指導してゆくことが、そのおもな仕事である。ケーミンフ条約機構と較べればささやかだが、これも木星圏を繋ぐ仕事であった。彼も、その仕事を気に入ってくれているようだ。そして、今回の一件に関わった六人は、その調整局に所属している。つまり、このわたしも。そして、形式的にはナディーカ姫も、である。
そこでは彼が局長なので、あのナディーカ姫も、いろいろな方法であの頃のように愛されている。公務の息抜きという側面もあるのだろうが、彼女は喜んで彼の元へいそいそと出向く。ルリアさまもジャニスさまも、ジェニファーさんもリリアさんも、それは同様だ。――わたしも、そうである。
方法は、ここでは多くは記さないが、特筆すべきは“母乳プラス”だろう。すでにわたしたちがスガーニーにいたあの時期にオイオから羞恥服と同時に到着していたもので、続けて飲むことでわたしたちの
わたしたちは、あの頃よりもいっそう大胆に、みだらになっているように思う。わたしも、ルリアさまも皆も、深い満足を覚えている。彼の調整局はわたしたちにとって、オアシスであると同時に、エネルギー補充所となっている。
なお、わたしの姓の末尾の「フ」は、「開明府」の「府」と同義だそうである。これは、ごく最近、ルリアさまから教えていただいた。ルリアさまの博識に、あらためて頭が下がる思いがした。
わたしは、いまでもルリアさまをお慕いしている。調教士殿との御仲に、立ち入ろうとは思わない。あくまでも、心情としての思慕である。わたしたちを深く結びつけてくれた調教士殿には、感謝している。
本書は、これでひとまず終わりである。
幸運なことに、スガーニー側の事情、経緯については、ジェニファーさんが同じような記録書の準備をしていた。スガーニーの部分は、彼女の筆に
わたしは彼女と話し合い、またルリアさまとナディーカ姫のお許しもいただき、両書を統合し、全体をあらためてわたしが執筆することにした。大口かもしれないが、言うなればこれも、国家の誇りを保ったままの「統合」、歴史叙述の統合であろう。
題は『衛星和誌』とあらためた。『衛星群−』では、この木星圏すべての衛星の物語と思われると考えたからである。それは別書に譲り、わたしはここで筆を置くことをお許し願いたい。
母なる木星とその稚児たるわが星系に、末永き光輝のあらんことを。
全民によき未来が訪れますように。
一〇三九〇年一一月吉日
ミ・ドリ・ハイディ・オリョーフ